元川悦子
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元川悦子サッカージャーナリスト

1967年7月14日生まれ。長野県松本市出身。業界紙、夕刊紙を経て94年にフリーランス。著作に「U―22」「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年 (SJ sports)」「「いじらない」育て方~親とコーチが語る遠藤保仁」「僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」など。

前田大然を強くした16歳での挫折…高1の冬から1年サッカーを離れた“問題児”の意識改革

公開日: 更新日:

吉永一明(現アルビレックス新潟シンガポール監督)

「親や先生、チームメートなど周りにたくさん迷惑をかけました。しっかり恩返しをしたい」。カタールW杯参戦が有力視される俊足FW前田大然は、口癖のようにこう語る。それも山梨学院大学付属高校(現・山梨学院校)時代に約1年間、サッカーから離れた経験が大きい。「サッカー部を離れている間はパン屋での早朝奉仕活動からスタートして早くに登校して掃除をしたり、イチから生活態度を改めました。16~17歳の1年間というのは、サッカー選手にとって凄く大事な時期だが、本人は諦めずに戻ってきましたね」と語るのは当時の吉永一明監督(現アルビレックス新潟シンガポール監督)だ。恩師の言葉から丸刈り頭のスピードスターの原点を探った。

 ◇  ◇  ◇

■サッカー部の活動を謹慎

 ──初めて会ったのは?

「中3の夏です。大然が所属していた(大阪・河内長野市の)川上FCのジュニアユースの選手が毎年、山梨学院高に進学していた関係もあり、我々が(大阪・堺市の)Jグリーン堺に遠征する夏休みに練習参加してもらいました。当時の大然は飄々としたタイプでBチームの試合に出て点も取っていました。強烈なインパクトはありませんでした。でも『そこそこやるじゃないか』という印象を持ちました」

 ──小6の前田が高校サッカー選手権で山梨学院高が、日本代表MF柴崎岳(レガネス)擁する青森山田を下すのを見て「山梨学院高に行くと決めた」と言っていた。

「その話は聞いていました。入学時は1年生チームでプレーしていましたが、1学年上のFWに渡辺剛(コルトレイク)や大野佑哉(松本)がいて『その中に入っていけそうだな』とは感じていました。少しこじゃれた髪形にしていた記憶もあります(笑)」

 ──問題が起きたのは?

「高1の冬ですね。そのころ2、3年の先輩たちが寮内で問題を起こしたこともあり、学校側がピリピリしていた時期でした。いじられキャラの同級生を大然が冗談半分にからかったりして、それを周りから問題視されて収拾がつかなくなり、サッカー部の活動を謹慎するという形になったのです。本人は『サッカー部に残りたい』と言っていましたが、すぐに戻すことはできないし、そもそも戻せるかどうかも分からない。そういった事情を大阪に行って親御さんにも説明しました」

 ──それからの前田は?

「一般生徒と同じ扱いなので学校の授業には来ていました。学校外に関しては、大人たちと接して社会性を身に付けるのが必要と考え、パン屋での奉仕活動などを勧めました。本人は朝5時から掃除やパン作りの手伝いをしていたようです。担任も『早く来て教室の掃除をしてます』と話していました。明らかに立ち居振る舞いや態度が変化したと感じました。そこで『サッカーをさせる場を与えたらどうか』という話になり、横森巧総監督や地元の方に動いていただき、日川クラブという歴史ある社会人チームを紹介して練習に行かせました。(山梨学院高の)コーチに時々様子を見に行ってもらいましたが、真面目にプレーしている姿は知っていました」

 ──サッカー部に戻ってきたのは?

「高2の終わりです。一番大事なのは、他の部員が大然を受け入れてくれるかどうか。いろいろな意見がある中、1月中旬に部員みんなで話し合って『そろそろいいんじゃないか』と意見が一致し、2月から復帰しました。16~17歳の1年間というのは、サッカー選手にとって非常に重要な時期。処分を受けたもう1人がサッカーから離れる中、大然は諦めずに本当によく頑張って戻ってきた。それだけサッカーと真剣に向き合っていたということ。彼の強い意志が仲間を動かして『一緒にやろう』という気持ちにさせたと思います」

 ──前田は感謝の言葉を今も言い続けている。

「当時の仲間も、大然のことを応援し続けてますよ。20年東京五輪の1次リーグで出番が少なかった彼を励まそう! と当時のキャプテンが同期30人に連絡してメッセージ動画を送ったほど。いじられた生徒とも凄く仲が良いのですが、大然の人柄ゆえだと思います」

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