著者のコラム一覧
元川悦子サッカージャーナリスト

1967年7月14日生まれ。長野県松本市出身。業界紙、夕刊紙を経て94年にフリーランス。著作に「U―22」「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年 (SJ sports)」「「いじらない」育て方~親とコーチが語る遠藤保仁」「僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」など。

(6)因縁のスタジアムでの決戦は雨か…よぎる7年前アジア杯8強止まり、アギーレ解任の悪夢

公開日: 更新日:

「日本はオーストラリア相手にW杯出場を決めたことが多かった」

 日本代表のエースナンバー10を背負う南野拓実(リバプール)が、23日のオンライン取材で語ったように2014年ブラジル、2018年ロシアの直近2大会のW杯切符を手にしたのが、24日にシドニーで顔を合わせるオーストラリアとの戦いだった。

 前者は本田圭佑のPKで追い付いてドロー。後者は浅野拓磨(ボーフム)と井手口陽介(セルティック)の2発で勝利。いずれもホームの埼玉スタジアムだった。

 が、アウェーでの最終予選は、まだ一度も勝利したことがない。

「今回決められば、僕が過去に見てきたような歴史に残る一戦になる。このチームでそれを成し遂げたい」と語気を強める10番の思いは、チーム全体の共通認識に違いない。

吉田麻也「大切なのは先に失点しないこと」

 最終決戦を控えた23日は、午前中こそ太陽が時折出ていたが、午後からは雲も広がり、確実に下り坂という気配だった。気温は最高23度・最低19度と過ごしやすい環境ではあったが、24日は終日、雨に見舞われそうだ。

 23日のオンライン取材に登場した久保建英(マジョルカ)も「雨は嫌いですね。あんま楽しくないし、グランドがぐちゃぐちゃになったり、ロングボールになったり、お互い目指しているサッカーができなくなる」と話したが、お天道様だけは言うことを聞いてくれない。

 肉弾戦になったとしても、絶対に失点を許してはいけない。それは2021年11月のベトナム(ハノイ)、オマーン(マスカット)のアウェー2連戦以来の代表合流となった主将・吉田麻也(サンプドリア)も強調した点。

「大切なのは先に失点しないこと」と今一度、最重要ポイントを口にした。

 1~2月の中国、サウジアラビア戦(埼玉)をケガで棒に振った際、「自分に殺意すら覚えた」とSNSに投稿したほど、主将の役目を果たせない不甲斐なさを痛感した。

 だからこそ今回は守備陣をけん引し、クリーンシート達成の原動力になることが肝要だ。

20代の長身CBが急増している

「代表活動を逃すのは非常に悔しい。大事なのはケガを繰り返さないこと。長谷部(誠=フランクフルト)さんも31~32歳くらいの時にヒザのケガがあって、佑都(長友=FC東京)もそう。みんなそういう時が来るので、僕はタフだと思ってきたけど過大評価せずに突き詰めてやらなきゃいけない」と、33歳という年齢をしみじみ感じている様子。

 冨安健洋(アーセナル)や板倉滉(シャルケ)ら20代の長身CBが急増している今、大ベテランの吉田といえども、カタールW杯以降は生き残れる確約はない。強い闘争心を胸に秘め、主将は決戦に挑むはずだ。

 代表が夕方、試合会場のシドニー・オリンピック・スタジアム(スタジアム・オーストラリア)で公式練習を行うことになっていたので昼の時間帯を利用し、近所のショッピングセンターに出向き、前日から両腕皮膚にらダメージを受けているベッドパグ(南京虫)の治療用軟膏をドラッグストアで買った。

 簡単な英語で事情を説明するとすぐに薬剤師が薬を出してくれ、その料金を宿泊ホテル側が負担してくれた。

 親切なのは有難かったが、トラブルはないに越したことはない。26日の帰国時までに何も起こらないように改めて祈った。

吉田麻也は7年前の生き証人の一人

 そして現地午後4時。約8万人収容の巨大スタジアムに到着。オーストラリア・サッカー協会広報部員の誘導に従って地下1階から中に入ると、7年前の2015年アジア杯の光景が蘇ってきた。

 大会連覇を狙っていた日本代表はこの地で準々決勝・UAE戦に挑み、最終的に本田圭佑と香川真司(シントトロイデン)が揃ってPK戦で失敗。まさかの8強止まりに終わったのだ。

 当時の指揮官アギーレ監督は八百長疑惑の渦中にあり、敗退の責任をとって直後に解任。

 日本はハリルホジッチ監督(現モロッコ代表監督)率いる新体制でリスタートしたわけだが、非常に不完全燃焼感の強かった結末だったのは間違いない。

「ポジティブ・モンスター」の異名を取る長友も、ブラジルW杯惨敗から半年後の苦杯に意気消沈。報道陣にも無言だった。

 当時の生き証人の一人である吉田は、「オーストラリアは凄く好きな国でシドニーの街もキレイだけど、結果を残したことがない。今回はいい思い出に変えたい。オーストラリアに敵地で勝っていないので、この相手を倒してW杯を決めることがチームの成長に繋がる。掴み取れるまでしっかり戦います」と、目をぎらつかせた。

 因縁深いスタジアムで日本は大きく飛躍した姿を示せるのか。

 けが人続出のオーストラリアを倒せなければ、カタールW杯8強への道を開けない、というくらいの危機感を持ち、アグレッシブに戦ってほしい。

 決戦の地で強くそう願った。(つづく)

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    永野芽郁“”化けの皮”が剝がれたともっぱらも「業界での評価は下がっていない」とされる理由

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    大阪万博「午後11時閉場」検討のトンデモ策に現場職員から悲鳴…終電なくなり長時間労働の恐れも

  4. 4

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも

  5. 5

    遠山景織子の結婚で思い出される“息子の父”山本淳一の存在 アイドルに未練タラタラも、哀しすぎる現在地

  1. 6

    桜井ユキ「しあわせは食べて寝て待て」《麦巻さん》《鈴さん》に次ぐ愛されキャラは44歳朝ドラ女優の《青葉さん》

  2. 7

    江藤拓“年貢大臣”の永田町の評判はパワハラ気質の「困った人」…農水官僚に「このバカヤロー」と八つ当たり

  3. 8

    天皇一家の生活費360万円を窃盗! 懲戒免職された25歳の侍従職は何者なのか

  4. 9

    西内まりや→引退、永野芽郁→映画公開…「ニコラ」出身女優2人についた“不条理な格差”

  5. 10

    遅すぎた江藤拓農相の“更迭”…噴飯言い訳に地元・宮崎もカンカン! 後任は小泉進次郎氏を起用ヘ