フェンシング男子エペ団体「金」見延和靖<2>選手村のジムで起きた大逆転劇、包丁研ぎで無心になる
開催直前の延期決定も傷口を広げた。
「延期決定の数カ月前までどっちに転ぶか分からないという状況が続いて、あのときが一番苦しかった。もともと東京でやめるつもりはなかったので、モチベーションという意味では東京は通過点でしかなかったけど、僕たちの職業(フェンシング)で一番大事なのは調子の波をつくること。いかに勝つべき日に調子を上げてこられるかにかかっている。なかなかスタートを切れず、大きな波をつくれない難しさがありました」
調子の波を上げるため、約5年前から続けていることがある。16年、出身である福井県越前市のふるさと大使に就任。このとき手にした福井の伝統工芸「越前打刃物」の包丁を研ぐことがメンタルコントロールに一役買っている。
「僕の場合、体づくりや技術づくりの前に、心づくりから始めるので、心を整えるために包丁を研いでいます。目的はただ無心になること。料理で使うものとは別で、『研ぐ専用』の包丁です。周囲には『家の包丁が切れなくなったら研いであげる』と言っているんですけど、来てくれたのは佐藤希望選手だけ。佐藤さんは高校の先輩ですから、『研いでおいて~』っていう軽い感じでした(笑い)」