元川悦子
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元川悦子サッカージャーナリスト

1967年7月14日生まれ。長野県松本市出身。業界紙、夕刊紙を経て94年にフリーランス。著作に「U―22」「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年 (SJ sports)」「「いじらない」育て方~親とコーチが語る遠藤保仁」「僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」など。

【埼玉スタジアム】サッカー取材で慣れ親しんだスタジアム周辺は金網で覆われ…3位決定戦はメキシコに惨敗

公開日: 更新日:

埼玉スタジアム

 53年ぶりの五輪銅メダルを目指した日本U-24代表だったが、6日のメキシコU-24代表に1-3の完敗。9年前の2012年ロンドン五輪と同じ光景を目の当たりにすることになった。

 試合後、最年少ながらエースと位置付けられた久保建英レアル・マドリード)は人目をはばからずに号泣。彼を励ました主将の吉田麻也(サンプドリア)も「今日もスタジアムの外で大勢のサポーターが応援の横断幕を掲げてくれた。メダルで恩返ししたかった」と本音を吐露した。

 もしも大一番を満員の埼玉スタジアムで戦えていたら、違った結果になっていたかもしれない……それが大いに悔やまれた。

 2002年日韓W杯初戦・ベルギー戦のドローに始まり、2014年ブラジルW杯切符の懸かった豪州戦での本田圭佑のPK弾、2018年ロシアW杯切符を手にした浅野拓磨(ボーフム)と井手口陽介(G大阪)の2ゴール。日本サッカーの数々の歴史を築いてきた埼玉スタジアム。日本代表選手たちは、常に6万人近い大観衆の後押しを受け、勇気をもらい、難敵と対峙してきた。

 だが、コロナ禍で開催された今回の東京五輪はご存じの通り、無観客。静寂の中、行われた3日の準決勝・スペインUー24代表戦は、惜しくも延長戦の末に負けてしまった。

 それでも、自国開催の今回はメキシコを倒して53年ぶりのメダルを獲得してくれるはず。そんな期待を抱いたのは、筆者だけではなかっただろう。

埼スタ周辺には代表ユニ姿の家族連れが

 試合前日に突如としてキックオフ時間が午後8時から同6時に前倒しされるという前代未聞の事態も起きたが、6月に急きょA代表との「兄弟対決」が実現し、札幌移動を強いられた彼らなら問題ないはず。

 この時は福岡移動便も暴風雨のため飛ばず、吉田が号令をかけて空港ベンチで緊急ミーティングを実施。臨機応変さも持ち合わせている。そんな経験も、今回のアクシデントに生かしてくれると考えていた。

 だが、スペインに敗れた心身両面のダメージが一気に来たのか、日本選手の試合の入りは重かった。遠藤航(シュツットガルト)が献上したPKを早々と決められると、22分にはFKから2点目を食らい、後半の早い時間帯に3失点目を喫した。 

そうなる前に超満員の観衆の声援が響いていたら、彼らももうひと踏ん張りできたはず。野球やサッカーのような大規模スタジアムで戦うスポーツは、やはり<有観客か否か>が、勝敗を大きく左右するのだ。

 実は筆者はこの日、試合開始3時間前の埼玉に足を運んでいる。

 灼熱の太陽の下、慣れ親しんだ場所に着くと普段、当たり前のように歩いている外周通路が金網で覆われ、近付けなくなっている。サブグランドとストリートバスケット場エリアは何とか入れたため、しばらく様子を見ていると「3位決定戦を応援したい」という代表ユニフォーム姿の家族連れが何組か訪れ、それぞれ記念写真を撮っていた。

「できれば試合が見たい」と彼らは心底、感じたのではないか。

 その中に浦和レッズのスクールに通っている小学生と母親がいた。

「近くに住んでいるので気になって様子を見に来ました」と母親は言う。少年の方も「僕は三笘(薫=川崎)選手のファン。レッズ育ちの橋岡(大樹=シントトロイデン)も応援しています。今日の試合は絶対に勝ってほしいですね」と目を輝かせていた。

 せめてこういった近隣の子供だけでも観戦可能だったら……東京五輪を勇敢に戦ったU-24代表の歴史が、しっかりと後世に引き継がれたはず。もちろんテレビを通しての記憶も大切だが、目の前にそびえているスタジアムに入れなかった事実は、彼らに重くのしかかるだろう。

 埼玉の場合は2001年からの20年間に、冒頭のような輝かしいレガシーがあるからまだいいが、東京五輪用に整備された新規の恒久施設の今後は、多くの困難に直面するのではないか。今後のあり方を各地域ごとにしっかり考えていくべきだ。

最寄り駅は閑散

 埼スタの最寄り駅である埼玉高速鉄道・浦和美園駅にも行ってみた。

 平日の日中ということもあって人っ子1人いない状態。イオンモール浦和美園店も閑散としていた。

「今日は本当に代表戦がある日なのか……」と信じられない気持ちになった。

 日本代表と浦和レッズのユニフォームを数多く販売しているイオンモール内のスポーツショップ店員も「U-24代表が勝ち進んだからと言って、特にユニフォーム販売が増えたということはないです」と苦笑する。

「学校が夏休みに入ってからはお客さんも多かったんですが、埼玉県に緊急事態宣言が発令された2日以降はまたガクッと客足が減りました。今日、サッカー日本代表のメダルマッチがあるんですか、知りませんでした」と1階の食料品店スタッフも淡々としていた。

 お膝元の経済効果は皆無に近いようだ。

 果たして今回の東京五輪はサッカーの街・浦和に何を残したのだろうか。少なくとも男子サッカーの奮闘の記憶だけは地元住民の脳裏に焼き付けてほしいものである。

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