小林節
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小林節慶応大名誉教授

1949年生まれ。都立新宿高を経て慶大法学部卒。法学博士、弁護士。米ハーバード大法科大学院の客員研究員などを経て慶大教授。現在は名誉教授。「朝まで生テレビ!」などに出演。憲法、英米法の論客として知られる。14年の安保関連法制の国会審議の際、衆院憲法調査査会で「集団的自衛権の行使は違憲」と発言し、その後の国民的な反対運動の象徴的存在となる。「白熱講義! 日本国憲法改正」など著書多数。新著は竹田恒泰氏との共著「憲法の真髄」(ベスト新著) 5月27日新刊発売「『人権』がわからない政治家たち」(日刊現代・講談社 1430円)

国際常識を逸脱した入管法改正案 日本は文明国家でも国際国家でもないのか

公開日: 更新日:

 難民条約(1951年採択、54年発効。日本は81年に批准)31条は、「庇護申請国へ不法入国しまたは不法にいることを理由として、難民を罰してはいけない」と規定している。さらに33条は、「難民を彼らの生命や自由が脅威にさらされる『おそれがある』国へ強制的に追放したり、帰還させてはいけない」とまで明記している。

 にもかかわらず、今回の入管法改正論争を見ていると、「日本にしがみついている不法滞在外国人を早く母国へ追い払いたい」という国家の強い意思しか伝わってこない。

 思い起こしてほしい。かつて第2次世界大戦の敗者としてどん底まで落ちたわが国は、世界の諸国から助けられ、また、世界の諸国を利用して、立派に復興を遂げることができた。だから、今こそ、転換期の大混乱の中にある世界において、戦争以外の方法で「名誉ある地位」(憲法前文)を目指すべきである。

 難民は、母国から迫害されている証拠など持ち出せずに逃げて来た者が、事柄の性質上ほとんどである。だから、その者に「証拠」を求めるなどという無理なことはせずに、「疑わしきは申請人の利益に」という原則に改めるべきである。

 また、公正な難民認定を目指すと標榜するならば、その手続きに、人権先進諸国の例に倣って、司法手続き(公正な第三者)を当然に組み込むべきであろう。

 もうひとつ、出入国在留管理庁の組織としての人権軽視のような体質が気にかかる。最近、収監者の死亡事故を断食による自死と疑った愚かな国会議員がいたが、百歩譲ってそうだと仮定したとしても、その収監者の状態を監視していた入管職員がそれを察知して内科医に診せれば点滴で一命を取り留め得た事例である。にもかかわらず、医師でもない入管職員が、その者の詐病を疑って精神科医に診せて放置して死に至らしめた、その「人を人とも思わない」組織の感覚が恐ろしいと気づくべきである。

 いずれにせよ、アフガニスタン、ミャンマー、スリランカなど、世界は大混乱に陥っている。日本も、もはや移民受け入れ政策を確立すべき時が来ているのであろう。

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