小林節
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小林節慶応大名誉教授

1949年生まれ。都立新宿高を経て慶大法学部卒。法学博士、弁護士。米ハーバード大法科大学院の客員研究員などを経て慶大教授。現在は名誉教授。「朝まで生テレビ!」などに出演。憲法、英米法の論客として知られる。14年の安保関連法制の国会審議の際、衆院憲法調査査会で「集団的自衛権の行使は違憲」と発言し、その後の国民的な反対運動の象徴的存在となる。「白熱講義! 日本国憲法改正」など著書多数。新著は竹田恒泰氏との共著「憲法の真髄」(ベスト新著) 5月27日新刊発売「『人権』がわからない政治家たち」(日刊現代・講談社 1430円)

議員は人間の代表で山の代表ではない「1人1票の原則」は民主主義の本質だ

公開日: 更新日:

 憲法上、国会の議員定数、選挙区、選挙人の資格は国会が法律で定めることになっている(43条2項、44条、47条)。国会の自律である。しかし、憲法は、大原則として「法の下の平等」を定めており(14条)、さらに選挙人の資格についても明文で差別を禁じている(44条)。だから、その人がたまたま住んでいる地域により「一票の影響力」に「格差(差別)」があって良いはずがない。これが「1人1票」の原則で、民主主義諸国における下院(衆議院)選挙制度に関する憲法常識である。

 そこで、わが国でも、衆議院小選挙区については、10年ごとの大規模国勢調査の結果に従って都道府県別の小選挙区の数が変更される制度になっている。今回は、2020年国勢調査の結果に従って、1都4県で10議席が増え、10県で10議席が減ることになる。

 しかし、今回の「10増10減」案が自民党の了解を取りつけた過程でも、そして了解された今でも、この案には反対が根強い。それは、この案で小選挙区が削減される県について、「地方の声が国政に反映されなくなる」というものである。

 しかし、選挙制度の本旨を考えてみれば、そのような批判は、人口減の結果として選挙区を失う現職の議員が既得権益を守りたいと言っているだけのように聞こえてしまう。

 民主国家における議会は、国家の平和と繁栄のために、「主権者」国民大衆の代表として、有限な国庫の配分を決め、公益のために不可避な負担を国民に課す権力機関である。

 人間が皆、個性的な存在である以上、議会は国民総体の「できる限り正確な縮図」でなければならない。つまり、議員とはそういう意味で「人間の代表」なのである。だから、選挙区ごとの議席配分は人口に比例していなければならないわけである。

 にもかかわらず、かつては人口が多くあったために議員に選出された者が、今は過疎化してその前提を失った地域にも議席(つまり自分の立場)を残せという主張は、いわば、「山の代表」として議席を残せと言っているに等しい。そこには、議席を利権・家産とする人々がいる。



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『人権』がわからない政治家たち」(日刊現代・講談社 1430円)

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