小林節
著者のコラム一覧
小林節慶応大名誉教授

1949年生まれ。都立新宿高を経て慶大法学部卒。法学博士、弁護士。米ハーバード大法科大学院の客員研究員などを経て慶大教授。現在は名誉教授。「朝まで生テレビ!」などに出演。憲法、英米法の論客として知られる。14年の安保関連法制の国会審議の際、衆院憲法調査査会で「集団的自衛権の行使は違憲」と発言し、その後の国民的な反対運動の象徴的存在となる。「白熱講義! 日本国憲法改正」など著書多数。新著は竹田恒泰氏との共著「憲法の真髄」(ベスト新著) 5月27日新刊発売「『人権』がわからない政治家たち」(日刊現代・講談社 1430円)

岸田首相が靖国神社に“真榊奉納”…憲法原則である「政教分離」を理解していない

公開日: 更新日:

 靖国神社が明治維新以来、第2次大戦に至るまで、国に殉じた者を祀る神社であることは、歴史的事実である。各国でそれぞれ国に殉じた者を追悼する方法は異なり、それを他国が批判することは要らぬ話である。

 しかし、敗戦の反省の下に制定された日本国憲法の下で暮らす現代の私たちは、憲法が改正されない限り現憲法に従う義務がある。

「政教分離」とは、要するに諸宗派の中で特定のものを公権力が優遇or弾圧してはならない……という憲法原則である。アメリカの憲政史の中で磨きあげられて、1947年に日本にも導入された。

 それは、全ての宗教が「人格の向上と世界平和」を説きながら、結局、少数派の人権弾圧と戦争の原因になってきた歴史的事実を直視して、特定宗派と国家権力の癒着を禁止する……という結論に至ったものである。それが、思想・良心の自由、表現の自由ひいては民主政治を支えている。

 もちろん、国に殉じた先人に感謝して平和を誓うことは正しい。

 しかし、だからといって、そのために現に権力を預かる者が、「内閣総理大臣」という肩書を付けて特定宗派の儀式である「真榊奉納」をしてしまっては、特定の神社を「日本国公認」の殉難者追悼施設だと認めた証しになり、露骨な政教分離違反である。まして、その人物が首相でない時には行わなかったその宗教儀礼を首相になった時にだけ行うのでは、なおさらである。

 この点について、かつて、小泉純一郎首相(当時)が良いことを言った。「私にも信教の自由がある」。つまり、首相(公人)の地位にある者にも個人(私人)としての信教の自由が憲法で保障されている。だから、8月15日の終戦記念日や春秋の例大祭の折に、堂々と個人として参拝することで「追悼の誠」を捧げることはできるし、すべきだろう。

 その際に注意することは、ただひとつ。「内閣総理大臣」という「公人」としての肩書を記帳せずに、玉串料、真榊代を公費から支出しない、それだけのことである。

 こうして、たったひとつの節度を守れば憲法問題は解消するはずである。



◆本コラム 待望の書籍化! 大好評につき4刷決定(Kindle版もあります)

『人権』がわからない政治家たち」(日刊現代・講談社 1430円)

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

最新の政治・社会記事

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    中村倫也&水卜アナ“新婚公開のろけ”が「ほっこり」から「さすがにくどい」に変わった瞬間

    中村倫也&水卜アナ“新婚公開のろけ”が「ほっこり」から「さすがにくどい」に変わった瞬間

  2. 2
    中日ロドリゲスが「亡命」で失う大金と平穏…メジャー移籍目指しすでにドミニカに入国

    中日ロドリゲスが「亡命」で失う大金と平穏…メジャー移籍目指しすでにドミニカに入国

  3. 3
    “奇跡の65歳”ピンク・レディー未唯mie 美貌の秘密は1日1食とノーパン生活

    “奇跡の65歳”ピンク・レディー未唯mie 美貌の秘密は1日1食とノーパン生活

  4. 4
    中村倫也の“水卜アナいじり”がモラハラ気味でプチ炎上も…女性からは擁護が圧倒的なワケ

    中村倫也の“水卜アナいじり”がモラハラ気味でプチ炎上も…女性からは擁護が圧倒的なワケ

  5. 5
    FA大谷争奪にスター不在の「第4の金満球団」参戦か メッツ・ドジャース・エンゼルスの“三つ巴”に殴り込み!

    FA大谷争奪にスター不在の「第4の金満球団」参戦か メッツ・ドジャース・エンゼルスの“三つ巴”に殴り込み!

  1. 6
    ガーシー容疑者側が地元警察に「オカン」の警護要請 ガサ入れ痛烈批判の裏に見るツラの皮

    ガーシー容疑者側が地元警察に「オカン」の警護要請 ガサ入れ痛烈批判の裏に見るツラの皮

  2. 7
    元特捜部長レクサス暴走事故で“新証拠”(後編)解析画像を無視した東京高裁に「職務放棄」とあきれる

    元特捜部長レクサス暴走事故で“新証拠”(後編)解析画像を無視した東京高裁に「職務放棄」とあきれる

  3. 8
    氷川きよし“Kiina”正式改名と独立復帰を阻むもの…支えてくれた母へ故郷で親孝行の日々

    氷川きよし“Kiina”正式改名と独立復帰を阻むもの…支えてくれた母へ故郷で親孝行の日々

  4. 9
    大阪万博ピンチ! 新国立の“悪夢”再び、デザインが独創的過ぎて「主要会場」が造れない

    大阪万博ピンチ! 新国立の“悪夢”再び、デザインが独創的過ぎて「主要会場」が造れない

  5. 10
    平野紫耀はタッキー新会社に? キンプリ永瀬廉と高橋海人“2人体制”番組続々発表にファン動揺

    平野紫耀はタッキー新会社に? キンプリ永瀬廉と高橋海人“2人体制”番組続々発表にファン動揺