小林節
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小林節慶応大名誉教授

1949年生まれ。都立新宿高を経て慶大法学部卒。法学博士、弁護士。米ハーバード大法科大学院の客員研究員などを経て慶大教授。現在は名誉教授。「朝まで生テレビ!」などに出演。憲法、英米法の論客として知られる。14年の安保関連法制の国会審議の際、衆院憲法調査査会で「集団的自衛権の行使は違憲」と発言し、その後の国民的な反対運動の象徴的存在となる。「白熱講義! 日本国憲法改正」など著書多数。新著は竹田恒泰氏との共著「憲法の真髄」(ベスト新著) 5月27日新刊発売「『人権』がわからない政治家たち」(日刊現代・講談社 1430円)

松野官房長官の詭弁…国葬を内閣の「裁量」でできるはずがない

公開日: 更新日:

 ついに岸田内閣の本音が出たというか、松野博一官房長官が、「国の儀式を内閣が行うことは行政権の『裁量』に含まれ、閣議決定を根拠に(国葬を)行うことは可能だ」と言い放った。

 憲法上、まず、「行政権は内閣に属する」(65条)。しかし、内閣は「(国会が制定した)法律を誠実に執行し、外交関係を処理し、(国会の承認を得て)条約を締結し、法律に従って公務員に関する事務を担当し、憲法、法律を実施するために法律の範囲内で政令を制定し、恩赦を決定する」ことが仕事である(73条)。また、内閣が国費を支出するには国会の議決に基づくことが必要で(85条)、予備費の支出にも事後に国会の承認を得なければならない(87条)。

 だから、内閣が「元首相の国葬」などという歴史的なイベントを挙行するためには、少なくとも、国会が制定した「国葬法」という法律に、その目的と基準などが既に規定されていなければならないはずである。

 内閣が引用する内閣府設置法4条3項33号は、例えば、既に憲法7条10号を受けて皇室典範(法律)25条に規定された大喪の礼(天皇の国葬)などの事務を内閣が担当するための「手続」規定である。

 だから、今回は、「元首相の国葬」について、国権の最高機関である国会(41条)の意思を示す国葬法(根拠法)がないことが文字通り「違憲」だと批判されているのである。

「裁量」とは、国語的には、「何ものにも縛られずに自分の考えで処理すること」であり、法的には、「該当法規が多義的なためにその範囲内で所管庁が自由に判断できる余地」のことである。例えば、大喪の礼の日時や式次第の詳細などである。

 しかし、今回の「安倍国葬」については「法律上の根拠」がないことが問われている。それさえあれば、式次第などは内閣府設置法4条によりそれこそ内閣の「裁量」である。

 内閣が懲りないのでこちらも再度指摘させてもらうが、今回の「安倍国葬」にはその挙行を「根拠づける法律」(国権の最高機関・国会の意思の証し)が存在しないことが問題なのである。



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