小林節
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小林節慶応大名誉教授

1949年生まれ。都立新宿高を経て慶大法学部卒。法学博士、弁護士。米ハーバード大法科大学院の客員研究員などを経て慶大教授。現在は名誉教授。「朝まで生テレビ!」などに出演。憲法、英米法の論客として知られる。14年の安保関連法制の国会審議の際、衆院憲法調査査会で「集団的自衛権の行使は違憲」と発言し、その後の国民的な反対運動の象徴的存在となる。「白熱講義! 日本国憲法改正」など著書多数。新著は竹田恒泰氏との共著「憲法の真髄」(ベスト新著) 5月27日新刊発売「『人権』がわからない政治家たち」(日刊現代・講談社 1430円)

「安倍国葬」について岸田首相はいつ「丁寧な説明」をするのか?

公開日: 更新日:

 岸田文雄首相は、8月6日、広島での記者会見で、安倍元首相を国葬で追悼する理由について、次のように語った。①異例の長期政権であったこと②選挙中の死であったこと③海外での評価が高く、たくさんの弔意が寄せられた。だから、わが国でも敬意を表し外国の代表を招くことが適切であること。

 その上で、「これからも、さまざまな機会を捉えて『丁寧に説明』していきたい」と付け加えた。

 上述の理由で納得できた国民は多くはないはずだ。だから、各種世論調査でも「安倍国葬」には反対と疑問の声が大きい。

(1)長期政権であったのは事実だが、その評価は、長さではなく、実績について下されるべきものである。その点で、アベノミクスが日本経済ひいては国民生活を向上させたという実感はない。また、安倍政権が推進した新自由主義という名の弱肉強食資本主義が、国民の間で格差を拡大して全体的に社会の活力を低下させたように見える。

「地球儀俯瞰外交」と称して頻繁に外遊した安倍首相(当時)であったが、国連安保理常任理事国入りは米中に阻まれ、北方領土返還交渉は、サハリン開発に出資させられただけで、返還の可能性は絶たれてしまった。また、力を入れていた拉致被害者の救出も進展がなかった。日米関係も、米国製兵器を言い値で爆買いすることが正解でないことは自明である。

(2)「選挙運動中に殺害された」という事実から、当初は「民主政治に対するテロ」という評価が流れた。しかし、その後、岸・安倍家3代の旧統一教会との付き合いに起因する教団2世の恨みによる犯行だと分かったあたりから評価は変化した。

(3)在任期間が長く海外で名の知れた元首相(しかも現役の代議士)の殺害の報に接して、外国の要人多数から弔意が寄せられたのは外交慣例上当然なことで、だからわが国でも「国葬」で応えて外国代表を招かなければならないというものではないはずだ。

 以上、これまでの岸田首相の説明は説得的ではない。その上で首相は「これからも丁寧な説明を続けたい」と語っている。主権者国民としては、ぜひ、その「丁寧な説明」を伺い納得させてもらいたいはずである。



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『人権』がわからない政治家たち」(日刊現代・講談社 1430円)

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