安倍元首相暗殺の謎 卑劣な蛮行の背景と混迷政局の今後(上)

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言語道断の蛮行に日本全体が震撼

 白昼堂々と行われた許しがたい言論弾圧テロは、この国の時計の針を巻き戻してしまうのか。

 参院選(10日投開票)が最終盤に入った8日、奈良市内で遊説中だった安倍元首相が凶弾に倒れた。享年67。マイクを握り、いつも通り力強く演説を始めて2分あまり。背後から2発の銃弾を撃ち込まれ、命を奪われた。ドクターヘリで搬送された奈良県立医科大付属病院によると、心肺停止状態で搬送され、首2カ所に銃創があり、大血管と心臓の心室に大きな傷もあった。失血死とみられるという。

 列島を震撼させる言語道断の蛮行。前代未聞の事件にテレビは深夜まで特別報道を続けた。銃撃の一報を受け、山形県内で街頭演説中だった岸田首相は遊説を取りやめ、自衛隊機を乗り継いで帰京。声を震わせて「民主主義の根幹である選挙が行われている中で起きた卑劣な蛮行であり、決して許すことはできない」と犯行を糾弾し、与野党幹部も口をそろえた。

 その通りだ。民主主義を担保する自由で公正な選挙を暴力で封じることは断じて許されない。ただ、死をもってしても、ゆるがせにできない事実がある。

 憲政史上最長の政権を率いた安倍は数の力で強引な国会運営に走り、言論の府から議論の機会を奪い、民主主義をないがしろにした。国政を私物化したモリカケ桜疑惑には一貫して頬かむり。特定秘密保護法、共謀罪、安保法制からなる「戦争3法」の施行を強行し、米国と共に戦う国に変貌させた。民主主義を軽んじた政治家が民主主義を否定する凶行に襲われたのは、歴史の皮肉なのか。

 立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)はこう言う。

「安倍元首相がこういった形で逝ったのは、主権者国民のひとりとして悔やまれます。しかし、アベ政治には暴力を生み出す素地があったことを忘れてはいけない。『戦後レジームからの脱却』という耳当たりの良いフレーズで戦前回帰の旗を猛烈に振ってきた。先の大戦を引き起こした天皇制や軍国主義への反省から、民主主義と平和を掲げる憲法を歪めようとしてきたのです。批判の声を敵視し、世論の分断を加速させた。そうした側面に言及せず、政治家としての歩みをマスコミが垂れ流すのは英雄視につながる。非常に危険です」

 自民党は幹部や閣僚の遊説をいったん中止したが、きょうは再開。岸田がマイク納めする新潟選挙区の陣営は〈蛮行に屈しない 予定通り開催します 特別応援弁士岸田総理〉と大書された告知をネット上にバラまき、弔い合戦の様相だ。「ピンチをチャンスに変える」──。安倍の常套句が思い起こされる。

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