小林節
著者のコラム一覧
小林節慶応大名誉教授

1949年生まれ。都立新宿高を経て慶大法学部卒。法学博士、弁護士。米ハーバード大法科大学院の客員研究員などを経て慶大教授。現在は名誉教授。「朝まで生テレビ!」などに出演。憲法、英米法の論客として知られる。14年の安保関連法制の国会審議の際、衆院憲法調査査会で「集団的自衛権の行使は違憲」と発言し、その後の国民的な反対運動の象徴的存在となる。「白熱講義! 日本国憲法改正」など著書多数。新著は竹田恒泰氏との共著「憲法の真髄」(ベスト新著) 5月27日新刊発売「『人権』がわからない政治家たち」(日刊現代・講談社 1430円)

敵基地攻撃能力を考える(5)防衛費をGDP2%へ増額への疑問

公開日: 更新日:

 防衛費をGDP(国内総生産)の2%を目標に増やしていくという話も何かふざけている。GDPとは過去1年間に国内で行われた経済活動の総額である。これが防衛費の根拠として無関係であることは自明であろう。例えば文教予算、新幹線整備予算で考えてみれば、その無関係性はよく分かるはずである。

 防衛費の算出方法も普通に考えればはっきりしている。まず、わが国に対する安全保障上の脅威を確認する。そのうえで、その脅威に対抗し得る抑止力を確認して、その抑止力を維持・向上させていくために必要な長期的および短期的予算を具体的に積み上げていく、その結果である。初めから「総額いくら」などと大ざっぱな目標があっていいものではない。予算とは主権者国民の財産の使い道であるから、政治家が気前良く目標を立てて構わないものではない。

 そういう意味では、装備、人員、日米協力などの経費を具体的かつ緻密に積み上げていった結果が仮にGDPの2%を超えた場合でも、それは、他の全てに優先する必要経費である。

 なぜなら、わが国を支配下に置きたいと考えていると疑われる専制国家にわが国が侵略を許したら、私たちは現に享受している自由と民主主義を全て失うからである。今のわが国では、政治権力者を報道で批判したジャーナリストや野党指導者が白昼に公道で撃ち殺されて迷宮入りになったりはしない。

 また、専制・軍国主義国家による侵略戦争の開始を許してしまったら、最終的には大きな犠牲を払って侵略者を追い出すことができたとしても、全国民が悲惨な被害を受けることはウクライナで実証されてしまった。だから、侵略を誘発しないだけの抑止力を維持するための防衛費は、私たちの自由と民主主義を守るために、国家として全てに優先する必要経費なのである。

 その点で、防衛予算について、今、気になる点をここで付言しておきたい。第1が、弾薬の備蓄を増やす必要である。どんなに優秀な自衛隊員が最新の兵器を運用していても、現場で弾が尽きては戦えない。第2が、国内の兵器産業が存続できるだけの利益率である。 (つづく)



◆本コラム 待望の書籍化! 大好評につき4刷決定
『人権』がわからない政治家たち」(日刊現代・講談社 1430円)

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

最新の政治・社会記事

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    山口達也さんの“再出発”に賛否…TOKIOを連想させる「社名」にドン引きするファンも

    山口達也さんの“再出発”に賛否…TOKIOを連想させる「社名」にドン引きするファンも

  2. 2
    西武・源田壮亮やはり無念の離脱…松井監督も苦悩する「WBC制覇」の大きすぎる代償

    西武・源田壮亮やはり無念の離脱…松井監督も苦悩する「WBC制覇」の大きすぎる代償

  3. 3
    中村倫也の“水卜アナいじり”がモラハラ気味でプチ炎上も…女性からは擁護が圧倒的なワケ

    中村倫也の“水卜アナいじり”がモラハラ気味でプチ炎上も…女性からは擁護が圧倒的なワケ

  4. 4
    「罠の戦争」健闘するも…フジ冬ドラマ不振がキムタク「教場0」の“おぜん立て”という皮肉

    「罠の戦争」健闘するも…フジ冬ドラマ不振がキムタク「教場0」の“おぜん立て”という皮肉

  5. 5
    Kōki,と工藤静香の“セレブ母娘”はどうする? 小松菜奈が「シャネルの顔」大抜擢の快挙

    Kōki,と工藤静香の“セレブ母娘”はどうする? 小松菜奈が「シャネルの顔」大抜擢の快挙

  1. 6
    武田鉄矢まさかのガーシー擁護…「金八先生」のイメージ完全崩壊で宮迫博之と同レベルに?

    武田鉄矢まさかのガーシー擁護…「金八先生」のイメージ完全崩壊で宮迫博之と同レベルに?

  2. 7
    ロンブー淳「ガーシー逮捕状」に沈黙貫く…番組出演促す発言、BTS詐欺擁護で問われる責任

    ロンブー淳「ガーシー逮捕状」に沈黙貫く…番組出演促す発言、BTS詐欺擁護で問われる責任

  3. 8
    「ペンギン池落下」で最も迷惑なのは春日俊彰? カンニング竹山ら先輩の「擁護」が逆効果

    「ペンギン池落下」で最も迷惑なのは春日俊彰? カンニング竹山ら先輩の「擁護」が逆効果

  4. 9
    長澤まさみ美脚を惜しげもなく披露 「シン・仮面ライダー」ショッカー怪人役で圧倒的存在感

    長澤まさみ美脚を惜しげもなく披露 「シン・仮面ライダー」ショッカー怪人役で圧倒的存在感

  5. 10
    高市早苗氏は地元や総務省から総スカン…捏造発言は職員への「配慮」と主張の支離滅裂

    高市早苗氏は地元や総務省から総スカン…捏造発言は職員への「配慮」と主張の支離滅裂