片岡健
著者のコラム一覧
片岡健ノンフィクションライター

出版社リミアンドテッド代表。著作に、「平成監獄面会記」、同書が塚原洋一氏によりコミカライズされた「マンガ 『獄中面会物語』」(共に笠倉出版社)など。

石巻3人殺傷事件 千葉祐太郎死刑囚「事件の時の記憶がないんです」

公開日: 更新日:

 2010年2月10日、交際相手・S子さん(当時18)の自宅(宮城県石巻市)に押し入り、交際に反対するS子さんの姉と友人女性を包丁で刺殺した千葉祐太郎死刑囚(30)。居合わせた男性の胸も刺し、重傷を負わせた。裁判員裁判を受けた犯行時少年の被告人では初の死刑囚となった。

 ◇  ◇  ◇

「俺、事件を起こした時の記憶がないんですよ」

 14年8月初旬、仙台拘置支所の面会室。千葉死刑囚はすました顔でそう言った。この予期せぬ「告白」に私は少し戸惑った。

 彼は、この4年半前、「石巻3人殺傷事件」と呼ばれる事件を起こし、10年に始まった裁判員裁判で犯行時少年の被告人としては初めて死刑判決を受けた。当時はすでに控訴も棄却され、最高裁に上告中だった。

 その裁判員裁判の死刑判決によると、千葉死刑囚は同い年の交際相手S子さんにDVを繰り返した揚げ句、10年2月10日の早朝、宮城県石巻市のS子さん宅に押し入って、S子さんの姉と友人女性を包丁で刺殺。さらに居合わせた男性の胸を刺し、重傷を負わせた。そんな凄惨な事件は大きく報道され、まれに見る凶悪少年殺人犯という印象だった。

 だが、面会室で向かい合うと、当時23歳になっていた千葉死刑囚はどこにでもいそうな普通の若者に見えた。ネットでは、日焼けした険しい表情の写真が流布していたが、事件から4年以上も獄中にいるためか、肌は白くなり、表情も柔らかくなっていた。

 事件の記憶がないとはどういうことかと尋ねると、こう答えた。

「包丁は人を殺すためじゃなくて、S子を連れ戻す際に誰かに邪魔されたら脅すつもりで持っていたんです。でも、S子の姉ちゃんに110番通報され、そこから先は頭が真っ白になっちゃって……」

 裁判員裁判の死刑判決では、彼は犯行時、「邪魔する者は殺そう」と考えて包丁を持参したとされている。本人が取り調べでそう自白していたためだが、その自白は刑事に押しつけられたものだったという。

「取り調べの時は罪悪感に押しつぶされていて、『遺族が極刑を望んでいる』と言われ、本当のことを言えなかったんです」

 すぐには全部を受け入れがたい話ではあったが、取材を進めると、千葉死刑囚の主張に沿う鑑定結果が複数存在することがわかった。

幼少期には虐待やネグレクトを受けていた

 精神科医は犯行時の千葉死刑囚について、「警察に通報されるという予想外の事態が起き、自律神経症状と記憶欠損を伴う系列の暴力が生じたと考えられる」と結論し、臨床心理学者も、彼は犯行時に自分が自分である感覚が失われる「解離性障害」に陥っていたと判定していたのだ。

 千葉死刑囚は幼少期、母親やその再婚相手から虐待やネグレクトを受け、家の中で犬の首輪をつけられたりもしていた。これらの経験が遠因で犯行時に精神医学的な症状を発症したとのことだった。

 S子さんへのDVについては、こう説明した。

「当時の俺は、ビンタは2発まで暴力ではないと思っていたんです。子供の頃から暴力が身近にありすぎ、感覚が狂っていたんです」

 犯した罪は大きすぎ、擁護しようがないが、千葉死刑囚の人生が不遇だったのは否定しがたいように思えた。彼は事件の前年、S子さんとの間に娘をもうけていたが、事件以来、一度も会わせてもらえていなかった。娘のことはこう話した。

「子供の頃、自分が大人になって家族を持ったら、自分のような家庭には絶対したくないと思っていました。でも結果的に、娘を自分よりはるかに厳しい状況にしてしまい、自己嫌悪になりますね」

 16年6月、最高裁で死刑が確定し、面会も手紙のやりとりもできなくなった。娘はそろそろ思春期のはずだが、自分の父親が今どこで何をしているか、もう知っているのだろうか。そんなことをたまに考える。

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