小林節
著者のコラム一覧
小林節慶応大名誉教授

1949年生まれ。都立新宿高を経て慶大法学部卒。法学博士、弁護士。米ハーバード大法科大学院の客員研究員などを経て慶大教授。現在は名誉教授。「朝まで生テレビ!」などに出演。憲法、英米法の論客として知られる。14年の安保関連法制の国会審議の際、衆院憲法調査査会で「集団的自衛権の行使は違憲」と発言し、その後の国民的な反対運動の象徴的存在となる。「白熱講義! 日本国憲法改正」など著書多数。新著は竹田恒泰氏との共著「憲法の真髄」(ベスト新著) 5月27日新刊発売「『人権』がわからない政治家たち」(日刊現代・講談社 1430円)

自民党改憲草案102条にみる“憲法観”の異常性「国民は憲法を尊重すべき」

公開日: 更新日:

憲法改正問題を真面目に考えよう(7)

 イギリスとの武力抗争を経て、世界初の民主国家アメリカ合衆国が独立したのが1783年であった。その際、「絶対的権力は必ず堕落する」と体験的に知っていたジョージ・ワシントンは世界初の成文憲法(1788年+1791年修正)を制定した。

 以来、憲法は、国民の最高意思で権力者を拘束する法として世界に伝播していった。

 日本国憲法も99条で「天皇、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重・擁護する義務を負う」と明記している。

 ところが、自民党改憲草案102条には違ったことが書かれている。つまり、1項で「国民は憲法を『尊重』しなければならない」と規定し、2項で「国会議員、国務大臣、裁判官その他の公務員は、憲法を『擁護』する義務を負う」と規定している。要するに、「国民は憲法を『尊重』すべきで、政治家以下の公務員はその憲法が国民に守られるよう『擁護』しろ」ということである。

 つまり、「国民が憲法を尊重するように、政治家以下の公務員(つまり権力者)が管理する」という関係で、「主権者国民の最高意思である憲法に権力者が従うべきだ」という世界の常識の真逆になってしまう。

■権力者だけが法から自由になる

 その上で、自民党改憲草案は、国民に、日の丸と君が代を尊重する義務(3条)と国防に協力する義務(9条の三)を課している。この点も、自由で民主的な諸国の憲法常識に反している。

 このような批判に対して、改憲派の自民党議員が、「『国に授権する』という憲法観を採る」と言い放ったことがある。しかし、憲法論議の大前提である「憲法」の定義を勝手に変更することなど許されるはずがない。

 この自民党の憲法観には決定的な欠陥がある。それは、草案102条の下では権力者だけが憲法から自由になってしまうことである。つまり、形式的には権力者も国民の一員として憲法尊重義務を負ってはいるが、権力者だけがその「尊重」の認定権を握っている。だから、結局は、モリ・カケ・桜・東北新社のスキャンダルで見たように、権力者だけが法から自由になってしまうのである。そこに法の支配は存在しない。 =つづく


◆本コラム 待望の書籍化! 発売中
『人権』がわからない政治家たち」(日刊現代・講談社 1430円)

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

最新の政治・社会記事

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    テレ朝・玉川徹氏は鎮火せず、NHK解説委員・岩田明子氏の時は…番組発言“炎上騒動”の大違い

    テレ朝・玉川徹氏は鎮火せず、NHK解説委員・岩田明子氏の時は…番組発言“炎上騒動”の大違い

  2. 2
    ロシア下院議員が激怒! 「軍服150万人分消失」の怪事件はクーデターの予兆か

    ロシア下院議員が激怒! 「軍服150万人分消失」の怪事件はクーデターの予兆か

  3. 3
    今度は「安倍晋三記念紙幣」発行を求める文書が出回る…保守系や自民議員が発起賛同

    今度は「安倍晋三記念紙幣」発行を求める文書が出回る…保守系や自民議員が発起賛同

  4. 4
    復帰のレンドンは220億円の“不良債権” お粗末守備が来季の大谷とエンゼルス最大の障害に

    復帰のレンドンは220億円の“不良債権” お粗末守備が来季の大谷とエンゼルス最大の障害に

  5. 5
    大谷翔平の「貢献度」がジャッジよりも低く出る不公平なカラクリ 米紙記者が指摘

    大谷翔平の「貢献度」がジャッジよりも低く出る不公平なカラクリ 米紙記者が指摘

  1. 6
    HIS(上)ハウステンボス売却は“日米経済安保”に発展か…不動産取引の裏に隠された深刻事態

    HIS(上)ハウステンボス売却は“日米経済安保”に発展か…不動産取引の裏に隠された深刻事態

  2. 7
    近ツーの“PTA代行サービス”が好調 背景に「できれば引き受けたくない」親の究極の選択

    近ツーの“PTA代行サービス”が好調 背景に「できれば引き受けたくない」親の究極の選択

  3. 8
    萩生田政調会長はまるで旧統一教会の“番犬”…「解散請求」を阻む嘘とゴマカシ

    萩生田政調会長はまるで旧統一教会の“番犬”…「解散請求」を阻む嘘とゴマカシ

  4. 9
    巨人原監督の続投は“消去法”…契約は「監督として3年」ではなく「球団と3年」の裏事情

    巨人原監督の続投は“消去法”…契約は「監督として3年」ではなく「球団と3年」の裏事情

  5. 10
    日本ハム近藤健介FA宣言なら争奪戦確実! あるのか巨人得意の“後出しじゃんけん”

    日本ハム近藤健介FA宣言なら争奪戦確実! あるのか巨人得意の“後出しじゃんけん”