さらば“大阪ミナミの魔窟”よ!「味園ビル」の最期を見届ける…言葉を失い心で泣いた夜

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 “大阪ミナミの魔窟”こと味園ビルの2階テナント部分にひしめく飲食店が昨年末をもって営業を終了。地下にあるライブホール「味園ユニバース」では音楽ライブなどが予定されるが、5月にはビル自体が解体予定だ。最期の雄姿を見届けるべく昨年12月に味園ビルを訪れた日刊ゲンダイ記者は見事に魔窟の沼にハマった。その様子は日刊ゲンダイ新春特別号で紹介したが、盛り込めなかったエピソードを紹介する。

  ◇  ◇  ◇

 味園ビルが完成したのは1950年代。当時、世界最大のキャバレーと言われた「ユニバ-ス」では、新人時代の和田アキ子ピンク・レディーが舞台に上がったという。

 約70年の歴史に浮き沈みは付き物で、バブル景気の終わりとともにキャバレー文化は衰退。一時は不況のあおりを受けて空き店舗が目立ったが、賃料を下げてテナントを募集した結果、2階部分に約40軒ものバーやスナックなどがひしめく、ミナミ随一のディープスポットへと変貌していった。

 1階から2階へと伸びる豪奢なスロープを上がると、そこが魔窟の入り口だ。「口」の字のフロアをグルグル回るだけでも、そこかしこに張られた怪しげなフライヤーや、誘蛾灯のようにきらめく看板が目に付いて飽きない。一見すると入りにくい店が立ち並んでいるが、ドアを開ければ、どの店もウエルカムムードなのだから不思議だ。

 そんな魔力は、国内はもちろん国外からも客を引き寄せた。約20年にわたり味園で営業しているバー「ロイヤル・クラウン」のサトシさんが言う。

「年末にほとんどのお店が閉めると聞きつけ、11月末ごろから大阪府外のお客さんが多く見えるようになりました。特に週末は府外から来た若いお客さんで賑わい、先日は広島から来た女性2人組が『ディープスポットと聞いてやってきました』と。海外のお客さんも味園がなくなることを知っているほど。ビル自体が海外からのツアーに組み込まれていましたからね」

 この日もインバウンドとおぼしき客がビル内を散策していた。

 サトシさんにオススメしてもらった「カッコイイ店」をのぞくと、まず目に飛び込んできたのは淡いワインレッドの光を放つシャンデリア。薄暗い店内の奥からボーッと現れた店主にハイボールを注文し、鎮静作用のありそうなダークな音楽に身をゆだねながらソファに深く腰掛ける。ゴシックファッションに身を包んだ椎名林檎がしっくりくる、映画のセットのような店内に語彙力を失った本紙記者は、ただただ「かっけえなあ……」と呟くことしかできなかった。

 ふと尿意を覚えて店のトイレに入ると、電気スイッチが分からず右往左往。冷たい便座に腰掛けながら、「かっけえ店のトイレは暗いもんだ」とひとりで納得し、スマホライトに頼らず用を足した。安心してください、外してませんよ!

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