「ワコールHD」初の最終赤字で5年ぶりトップ交代…初年度のミッションはいち早い黒字転換
婦人下着の首位、ワコールホールディングス(HD)は6月28日に開催した定時株主総会を経て、トップが交代した。矢島昌明常務執行役員グローバル本部長(62)が社長に昇格し、安原弘展社長(71)は退任した。社長交代は5年ぶりだ。
矢島社長は早稲田大学商学部卒。1984年に持ち株会社に移行する前のワコールに入社。12年間中国に駐在するなど海外経験が長く、技術生産や販売企画の責任者を務めた。
ワコールHDの2023年3月期の連結決算(国際会計基準)は売上高に相当する売上収益は2度の下方修正を経て前期比9.6%増の1885億円。事業利益は8.3倍の41億円の黒字だったが、最終損益は17億円の赤字(前の期は17億円の黒字)に転落した。米子会社が19年に買収したインティメーツ・オンラインの業績悪化による、のれん代などで約101億円の減損損失を計上したのが響いた。連結ベースでは83億円の減損損失となった。さらに、国内のワコールの早期退職実施による費用などが足を引っ張り、1949年の創立以来初の最終赤字となった。
「創業以来の危機を契機として会社の構造を見直すチャンスである。新経営陣で改革の成果を出していく」。社長交代の記者会見で新社長の矢島はこう強調した。
ワコールHDは百貨店など店舗での手厚い接客に強みを持つが、人件費の負担の重さが長年の課題。2022年11月、事業子会社のワコールを対象に250人程度の早期退職を募ると発表し、23年1月に155人が応募した。早期退職に応じた従業員には通常の自己都合退職金に特別加算金を上乗せして支給した。ワコール社長の伊東知康が責任を取って退任し、ワコールHDの安原が社長を兼務した。
創立以来の最終赤字の責任を取って安原は持ち株会社と事業会社の社長を辞任した。18年6月、創業家出身の塚本能交社長の後任として持ち株会社ワコールHDの社長に就いた。創業家以外の社長就任は初めてだった。
塚本能交は1948年生まれの75歳。芦屋大学卒。創業者である塚本幸一の長男として87年にワコール社長に就任。2005年の持ち株会社移行に伴いHDの社長になった。
ブラジャーからスタートしたワコールを下着の一大ブランドに育てたが、ネット通販の普及など劇的な市場の変化への対応が遅れた。