小沢コージ
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小沢コージ自動車ジャーナリスト

雑誌、web、ラジオ、テレビなどで活躍中の自動車ジャーナリスト。『NAVI』編集部で鍛え、『SPA!』で育ち、現在『ベストカー』『webCG』『日経電子版』『週刊プレイボーイ』『CAR SENSOR EDGE』『MONOMAX』『carview』など連載多数。TBSラジオ『週刊自動車批評 小沢コージのカーグルメ』パーソナリティー。著書に『クルマ界のすごい12人』(新潮新書)、『車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本』(宝島社)、『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた 27人のトビウオジャパン』(集英社)など。愛車はBMWミニとホンダN-BOXと、一時ロールスロイス。趣味はサッカーとスキーとテニス。横浜市出身。

中国BYD「ドルフィン」が実質300万円切りの衝撃 “黒船EV”の真打ちついに登場!

公開日: 更新日:

BYD ドルフィン(車両価格:¥3,630,000/税込み~)

 ある意味とんでもない、今後物議を醸しそうな電気自動車が登場した。その名もBYD「ドルフィン」。

 実はすでに1月末、話題の中国本気EVメーカーBYDから「アット3」が上陸済み。コチラはコチラで価格&サイズ感が凄くて、カローラクロス並みのバッテリーEVが実質ワンプライスの440万円。これに国からのCEV補助金(クリーンエネルギー自動車導入促進補助金)85万円を加えると355万円になる。

 アット3は58kWh強の大型電池を積んでいるので、モード航続距離が470kmとかなり長い。ただコイツはコイツで実力的には凄いが、もっと安くないとインパクト的は……とは思っていた。なぜなら既存の日産リーフも、中身はちと古めとはいえ安くなってきて、408万円スタートと頑張っているからだ。

 そう思ってたら今週出たBYD第2弾、ドルフィン標準モデルの価格&サイズを見てもうビックリ。スタート価格363万円と破格で、CEV補助金65万円を引くとなんと298万円と300万円切り! ついにこうきましたか、である。

 日本車ではオプション扱いされがちな、12.8インチの縦にも横にもなるハイテクディスプレイDiリンクや、先進安全のブラインドスポットモニターや、横からのクルマや歩行者にも反応するフロントクロストラフィックアラートまで完全標準装備。オマケにBYD独自開発の車内ミリ波レーダーを使った「幼児置き去り検知システム」まで標準だ。コイツは日本車はもちろん、ドイツ車にもない装備。ぶっちゃけこれだけで40〜50万円以上は取れるネタで、いろいろ含めて300万円切りはトンでもない価格破壊だ。

 もちろん、ドルフィン標準モデルは兄貴分アット3ほどは電池を積んでおらず45kWh弱。だがモード航続距離400kmとリーフより全然長く、実は骨格のeプラットフォーム3.0はアット3と全く同じだし、同じ電池容量58kWh強のドルフィンロングレンジでも407万円で補助金をさっ引くと342万円になる。これでモード航続距離が476kmに伸びるから十分も十分。ハッキリいって、ガソリン車にガチで対抗できる実力者である。

完全に脅威的な衝撃コスパEV

 気になる走りだが、実際乗ってみた。まず見た目は「ドルフィン」の名の通り、優しいつぶらなLEDライトを持つ愛らしいタイプ。フォルムもガチでイルカ似とはいわないまでも、穏やかな流線型だ。

 このあたり、BYDは面白くて、妙な日本車や欧州車のマネはしてこない。なぜならBYDは中国らしくなく、「独自開発」「独自デザイン」をモットーとしていて、インテリアディテールも水面や波をイメージしていて面白い。逆にユニーク過ぎて若干苦手な人もいるんじゃ? と思うほどだが、アット3ほど個性は強すぎない。

 肝心の走りも、標準モデルは95ps&180Nmの抑えめモーターパワー&トルクがゆえテスラEVほどのビックリ加速はない。ただ、EVらしく静か&滑らかでボディ剛性感もなかなか。細かい点ではブレーキのカッチリ感がもう少しだったり、ステアリングのキレがもっとあっていいとか、先進安全の介入が若干唐突だったりはする。ただしそれは贅沢とも言える文句だ。

 とにかく遂にガチでガソリン車と競える価格で登場し、サイズ的に同等のVWゴルフと比べて車内が広く、荷室も345ℓと十分なことを考えると、完全に脅威的な衝撃コスパEV。

 とはいえディーラー網はこれからだし、なによりクソマジメな日本人、中国EVにすんなり全員が心を許し、イキなりバカ売れするようなことはないだろう。

 ただしバッテリーEVの新しさ、BYDが得意とする安価なリン酸鉄を使ったブレードバッテリーの安心感を考えるとその存在は間違いなく侮れない。10年後、日本の安いEVはBYDばかりになってはない? とは言いきれない。

日本はノンキに補助金を出し続けていていいの?

 となると、急速に浮かび上がってくるのが国策としてのEVビジネスだ。

 実は中国国内で販売されるEVには中国産電池を搭載しなければイケないという排他的縛りがあり、最近北米ではインフレ法案が制定され、中国製ほか海外製EVには補助金が十分出なかったりする(細かくは色々レギュレーションあり)。欧州でも抑制案が出始めている。

 そんな状況下、中国から輸入される安価な電池を搭載した高品質なコスパEVに日本はノンキに補助金を出し続けていていいのか? という問題があるのだ。

 EVビジネスは既に国家的バトルになりかけている。理想的には誰がどこでどう作ったEVを、障壁なくどこで売ってもいい!という状況であるべきなのかもしれない。だが、既にその状況にはない。加え世界で間違いなく電池を安く大量に作れるのは中国だ。

 日本はEVビジネスを今後どうするのか? どう育てるつもりなのか? 政府はもちろん消費者も深く考えなければいけない。

 というかBYDは今後補助金ナシでも安さで我々を圧倒してくるのかもしれないのだから。

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