コロナ禍で売り上げ激減…地方の消臭剤メーカーV字回復のきっかけは「熱帯魚の水槽の臭い」
ハル・インダストリ 松浦令一社長
コロナ禍で売り上げを大幅に落とした会社もあれば、ピンチをチャンスに変えて売り上げを大幅に伸ばした会社もある。今回のもうけびとは、業務用の消臭剤を作って販売する静岡の会社の社長。コロナ禍で取引先の7割を占めたパチンコ店が休業を余儀なくされたのに伴い売り上げも激減。しかし今年の売り上げは4年前の1.5倍以上に急増。何が起こったのか。
「4年前に始めた家庭用商品のネット通販が軌道に乗ったのです。それ以前は、業務用が売り上げのほとんどを占めていたのですが、今は完全に逆転して家庭用が7割以上。本当はコロナ対策で支援を受けられる業種なのですが、売り上げが出てしまっているので認めてもらえませんでした、ハハハ」
同社は1983年創業で、消臭剤の製造・販売、消臭に関するコンサルティングを行っている。実は「消臭」という言葉は、同社の技術がもととなって生まれた。
「弊社は、周辺住民からの苦情に悩む水産加工工場の悪臭対策のために特殊な液剤・噴霧装置を開発したのが創業のきっかけです。その効果を聞きつけて工業系専門紙の記者が取材に来ました。そうしたら、この液剤は別の香りでマスキングする芳香剤でもないし、別の物質に臭いを吸着させる脱臭剤でもない。噴霧すると臭いが消えるのだから、消臭剤と名付けてはどうかという話になり、それが新聞に載ったのが、日本で消臭という言葉が使われた最初です」
商標は取っていなかったが、むしろそれが良かったと松浦さん。
「大手消費財メーカーがこぞって使ってくれたおかげで、消臭という言葉が定着しました。うちのような小さい会社がそこまで広めるのは大変ですからね。宣伝してもらったようなものです」
同社の家庭用商品には、消臭ビーズや消臭ミスト、消臭スプレー、消臭ゲルなどがあるが、最大の特長はやはり消臭力。例えば、熱帯魚の水槽の臭いのせいで妻から飼うのを反対されていた愛好家男性が同社の商品を使い始めたとたんに何も言われなくなり、趣味を諦めずに済んだとか、消臭剤を配合した柔軟剤は部屋干しをすると消臭成分が発散し、部屋の臭いまで消してしまうとか、高評価の声は後を絶たない。記者も同社の消臭スプレーを使ってみたところ、確かに生ゴミの臭いが瞬間的に消えてなくなった。まさに驚くべき消臭効果だが、なぜ4年前までネット通販をしていなかったのか。