村山治
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村山治ジャーナリスト

1950年、徳島県生まれ。1973年に早稲田大学政治経済学部を卒業し毎日新聞社入社。1989年の新聞協会賞を受賞した連載企画「政治家とカネ」取材班。1991年に朝日新聞社入社。東京社会部記者として金丸事件、ゼネコン汚職事件、大蔵省接待汚職事件などの大型経済事件報道に携わる。2017年からフリー。著書に『特捜検察vs.金融権力』(朝日新聞社)、『検察 破綻した捜査モデル』(新潮新書)、『安倍・菅政権vs.検察庁 暗闘のクロニクル』(文藝春秋)『工藤會事件』(新潮社)など。

【金丸脱税事件】異聞(10)法務省は金丸脱税捜査を承知していた 政権与党幹部にゴマをする幹部も

公開日: 更新日:

 捜査情報は漏洩していたのだろうかーー。

 法務省幹部の一部はかなり早い段階から、特捜部が金丸の脱税捜査をしていることを知っていた。

 「もちろん、省内では緘口令。金丸逮捕の報を聞いて、特捜部もやればできるじゃないか、と盛り上がった」と当時、法務省勤務だった元検察幹部は言う。

 「やればできる」というのは、政界の大物摘発を評価した言葉ではない。着手の「前打ち」報道がなかったことで特捜部を賞賛したのだ。法務省幹部らは当時、特捜部の捜査情報に基づくとみられる前打ち報道が相次ぐことを苦々しく思っていた。

 法務省の幹部は、予算や法案審議などが円滑に運ぶよう政権与党から野党まで国会議員に根回しをするのが仕事。いわば、官庁ロビーイストだ。政権与党のセンセイ方にとっては、政治腐敗を監視する検察は怖い猛犬に見えるが、法務官僚は尻尾を振ってくる愛玩犬に見える。そして、検察を牽制するため、法務官僚をいびる。その恰好の材料となるのがマスコミの前打ち報道だった。

 その多くは検察に食い込んだ記者が「出入り禁止」覚悟で検察から食いちぎってきたものだ。それを政治家側は「検察が捜査環境を整えるために情報操作した」と国会などで大々的に法務省を攻撃する。法務官僚は辟易しながら、ひたすら頭を下げる。それが日常の光景になっていたのである。

 法務省は行政機関ではあるが、幹部の多くは検事であり、検察現場と行ったり来たりしながら出世街道を歩む。実際、金丸脱税事件当時、特捜部で脱税事件を取り扱う財政担当副部長は金丸逮捕直後に法務省刑事局刑事課長に就任している。

 検察は各層で法務省刑事局や大臣官房と公式、非公式に情報を共有しており、捜査情報が法務省幹部に入ることは珍しくない。もちろん、法務官僚にとってもそれらの情報は秘密厳守だ。しかし、中には与党の国会対策委員会幹部らの歓心を買うため、身内の不祥事情報をご注進するような者もいた。

 あるベテラン議員秘書は、金丸事件の際、特捜幹部の女性スキャンダルを告発する怪文書を法務省幹部が自民党幹部に届けるのを見た、と証言した。その幹部は当の特捜幹部に真偽の確認もしていなかった。

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