SVR長官ナルイシキンは「元スパイ」 “いじられた側近”は大統領候補のひとり
「ヤー、ヤー」
プーチン大統領の前で、ロシア語で「私は、私は……」と答えに窮する側近。2月下旬、ウクライナ侵攻開始に先立つ「御前会議」の映像が全世界に流れ、不名誉にも一躍有名となったのは、対外情報局(SVR)のセルゲイ・ナルイシキン長官。にやつく独裁者にいじられ、冷や汗をかくのが「下っぱ」であるなら誰も驚かない。大統領候補に名前が挙がるほどの超エリートだったからこそ、この場面に皆、驚いたのだ。
■西側派遣のKGBエリート
会議は、最高意思決定機関の安全保障会議。ソ連共産党「政治局」の現代版と言えば、その重要さが伝わるだろうか。開戦3日前の2月21日、普通は非公開なのに、なぜかカメラが入った。議題はウクライナ東部の親ロシア派の独立承認について。この日は、約1時間の異様な大統領演説もあった。
ツァー(皇帝)となった男が、一人一人に意見を聞くのだが、結論はありき。「踏み絵」を迫られ、皆イエスマンになっている様子は一目瞭然だった。ショイグ国防相の腕時計の針は、映像公開の約5時間前。つまり、編集する時間があるのにあえてノーカットで流すところに、政権の意図が見え隠れする。