「超」円安に負けない家計防衛と資産づくり “円の価値”は50年前に逆戻り
円安が止まらない。先週は一時、1ドル=131円台まで下落し、2002年4月以来の低水準となった。“円の価値”は下がる一方で、輸入物価はますます上昇していく。「悪い円安」との指摘は絶えず、円安デメリットばかりが強調される。だが、こんな時こそ円安メリットに目を向け家計や資産を防衛すべきじゃないか──。
■1972年は「あさま山荘事件」や「米軍の北爆」
円安メリットといえば、輸出企業の業績アップが好例だ。円安効果で外貨建てのモノの価格が下がり、競争力が高まる。その結果、モノは売れて業績が拡大するという構図だ。
例えば、5万円のテレビを米国に輸出して販売していた場合、1ドル=100円だと500ドル。円安が進んで1ドル=120円になると、417ドル程度(5万÷120=約417)で販売可能となる。もし韓国製のテレビが450ドルで売られていたら、日本製のほうが円安効果で安くなる。
第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏はこう言う。
「ただ、円安メリットを享受する日本企業はかなり減少しています。日本の輸出数量と世界の輸出数量の伸びを比べると、円安になっても日本の輸出数量は増えていないことが分かります」
“円の価値”は50年前に逆戻り
さらに、こう続ける。
「ドル円は約20年ぶりの水準ですが、通貨の実力を測る実質実効為替レートは50年前とほぼ同じです。海外から見ると、日本は50年前に逆戻りしているように映るでしょう」
2022年2月の実質実効為替レートは「66.54」(2010年の年間平均=100)。この数値は50年前、1972年2月の「66.25」とほぼ同水準だ。
この年、街では小柳ルミ子の「瀬戸の花嫁」やよしだたくろうの「旅の宿」が流れていた。1月半ばにグアム島で横井庄一氏が発見され、2月には札幌冬季五輪が開幕し、あさま山荘事件も勃発。6月は米ウォーターゲート事件が起き、12月に米軍が北爆を再開(ベトナム戦争)した。レコード大賞はちあきなおみの「喝采」だった。
日本円の価値は、そのころと同程度ということになる。
金価格は4年間で6倍に
手をこまねいていては資産を目減りさせるばかりだ。ウクライナ危機や円安によって、価値を高めているのは金(ゴールド)。
「ロシアや中国が、保有する外貨準備のドルを金に換えるのではないかという見方が流れています。いま以上に金の価値は高まるかもしれません」(松井証券の窪田朋一郎シニアマーケットアナリスト)
金は基本的にドル建ての取引なので、円安になると国内での資産価値は高まる。2019年は1グラム=約4900円(年平均)だったが、先週は9000円近くまで上昇している。
「ドルベースでも過去には、短期間で数倍になったケースもあります」(窪田氏)
国際的な金の単位はトロイオンス(約31.1035グラム)。1トロイオンスで何ドルと表すのが標準だ。1980年代後半~90年代半ばの最高値は1トロイオンス=500ドル弱だったが、2001年に293ドルまで下落し、その後、急カーブを描いて上昇。11年には1896ドルをつけた。10年間で約6.5倍だ。1976年(140ドル)から80年にはたった4年間で約6倍にハネ上がっている。
「6倍は難しくても、過去の値上がりを見ると、安全資産である金の価格はもっと上昇しても不思議ではありません」(市場関係者)
円資産の何割かを金(現物、純金積み立て、金関連の投資信託、ETF=上場投資信託など)に振り分けておきたい。
日本株にメリットが?
少し意外かもしれないが、株式市場が円安メリットを受ける可能性があるという。
「円安によって、ドル建ての日経平均は下落傾向にあります。今年初めは250ドル程度でしたが、4月下旬は210ドル前後での推移です。円安が進めば進むほど、ドル建てでは割安になるので、海外資金が流入しやすい。海外勢が日本株を買い支えてくれるといえます」(前出の市場関係者)
なかでも、海外売上高比率の高い企業は国際的な知名度が高く、グローバルなビジネス展開で円安への耐性を備えているだけに有望だ。株価も底堅い。
TDK(海外売上比率は92%)や村田製作所(92%)、ヤマハ発動機(91%)、マブチモーター(90%)などだ。こうした企業は世界シェアトップの製品を持つ会社も多い。
「日米金利差の拡大などから日本株は先行き不透明です。日経平均は2万6000円の攻防となるかもしれません。しかし、秋以降に株価回復が期待できますから、見方を変えれば、現在は絶好の仕込み時といえます」(株式評論家の倉多慎之助氏)
いまこそ“円安に負けない資産づくり”に動く時といえそうだ。