ロシアは“禁じ手”化学兵器を使ったのか…くすぶる大量保有疑惑と戦闘激化の最悪シナリオ

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「レッドライン」を越えたのか。ウクライナに軍事侵攻中のロシア軍に化学兵器の使用疑惑が浮上している。5月9日の「対独戦勝記念日」に向け、プーチン大統領はウクライナ東部2州を完全制圧しようと躍起だ。ロシアは、化学兵器を大量に保有している疑惑もささやかれている。この先、“禁じ手”に手を染める可能性がある。

  ◇  ◇  ◇

 ロシア軍が化学兵器を使ったとされる場所は、ウクライナ東部の要衝マリウポリ。ウクライナの戦闘集団「アゾフ大隊」は、ドローンから有毒な化学物質を投下され、3人に呼吸障害が出たと主張している。ゼレンスキー大統領も11日、化学兵器使用の可能性について「最大限深刻に受け止めている」と警戒感を強めた。

 やはりロシアは化学兵器を使用したのか。一体、何が使われたのか。軍事ジャーナリストの世良光弘氏がこう言う。

「英米当局が事実関係を確認中ですが、被害者の症状を見る限り、使われたとすればサリンやソマン、タブンなどの神経剤だと考えられます。神経系統にダメージを与えるので、呼吸困難や失明、最悪の場合は心肺停止に至る。ただ、報告されている被害者が3人と比較的少ないことから、大規模な攻撃ではないでしょう。恐らく、小型ドローンを使い上空から神経剤をガス状にして散布したのではないか。農薬散布のような方法を用いた可能性があります」

 使用が疑われているサリンは、人が吸入した場合、投与された対象の半数が死ぬ「半数致死濃度」は1立方メートルあたり70ミリグラム。かなり毒性が強い。

 疑惑に関し、親ロシア派武装勢力は12日、「いかなる化学兵器も使用していない」と真っ向から否定。ロシアは「国内に化学兵器はない」と言い張っているが、過去を振り返ると大量保有している恐れがある。

化学兵器保有量は世界1位の約4万トン

 ロシアは化学兵器の開発・生産・貯蔵・使用を全面的に禁止する「化学兵器禁止条約」の締約国だ。条約発効の1997年当時、化学兵器保有量は世界1位の約4万トン。うち約3万2000トンはサリンなどの神経剤が占めていた。

「原則10年以内に化学兵器を全廃する」との取り決めを受け、期限を延期しながら2017年にようやく廃棄完了を宣言。ところが、翌18年にイギリスでロシアの元スパイ親子の毒殺未遂事件が発生し、ロシアによる化学兵器の生産・使用の疑惑が浮上。事件で使われたのは、かつてロシアが開発した神経剤ノビチョクだった。

■ノウハウさえ分かればいつても再生産可能

「化学兵器はノウハウさえ分かっていれば、いつでも再生産可能です。国際機関が廃棄のプロセスを査察しているとはいえ、ロシア側が『全廃した』と報告したに過ぎず、いまだにトン単位で保有していたとしても不思議ではない。ロシアが一線を越えたとすれば、怖いのは西側諸国が対抗策として、より強力な武器の供与に踏み込む可能性があること。例えばNATOが戦闘機などの大型武器を供与し始めたら、戦闘激化は必至です。それこそ第3次世界大戦という最悪のシナリオになりかねません」(世良光弘氏)

 英国防省の12日の戦況報告によれば、「今後2、3週間、ウクライナ東部での戦闘が激化する可能性がある」という。非人道兵器といわれる「白リン弾」が使用された可能性も出てきた。ロシアの“禁じ手”が世界大戦を招いてしまうのか。

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