王将フードサービス(下)「まず従業員満足度を上げる」経営戦略が奏功した
テレビの情報番組などで、外食産業が取り上げられることは多い。安さの秘密だったり、メニュー開発秘話などを面白おかしく伝えている。
10年ほど前まで、そうした番組によく取り上げられたのが「餃子の王将」だった。運営する王将フードサービスの大東隆行社長(当時)は、外食を代表する経営者として、メディアに出る機会も多かった。
ところが2013年12月、大東前社長は京都市の本社前で何者かに射殺される。大東時代、王将は業績を大きく伸ばしただけに、突然の死により、前途に暗雲が漂った。株価も大きく下落した。
■前社長の急死で登板した渡辺社長
そのピンチに登板したのが渡辺直人現社長だ。そして渡辺社長は、大東時代のオペレーションを大きく変えていく。
以前の王将は個店主義。店長に大きな裁量が与えられ、店独自のメニューも多かった。看板メニューの餃子も店内で手作りしており、店同士が切磋琢磨することで活気が生まれ、躍進の原動力となっていた。
セントラルキッチンの導入
その一方で大きな問題を抱えていた。個店任せの弊害で、店によって味付けはバラバラ、餃子の焼き方も統一されないなど、チェーンとしての統一感もなくなっていた。そのため店のファンはいても餃子の王将ファンはいない、という状況になりかけており、大東社長も頭を悩ませていた。
この課題を解決するために渡辺社長が導入したのがセントラルキッチンだ。16年、王将は80億円をかけて埼玉県東松山市にセントラルキッチンを竣工、このほか京都工場も拡張し、王将の店舗で提供する餃子はすべてセントラルキッチンでつくるようになった。
セントラルキッチンと店舗調理、外食チェーンでは常に比較される問題だ。最近でも大戸屋で、店舗調理を守りたい経営陣と、セントラルキッチンを主張する株主の間で対立が起きたことは記憶に新しい。
セントラルキッチンのメリットは、店ごとの味のばらつきがなくなることだ。しかも店舗内での作業が軽減されるため、店舗オペレーションがしやすくなる。
コロナ禍で多少、緩和されたとはいえ、外食にとって最大の課題が人手の確保だ。人手不足が常態化し離職率も高い。これを補うためにもセントラルキッチンは有効だ。実際、セントラルキッチン移行後、王将の離職率は減っている。
ただし、オペレーションを効率化するだけでは、無味乾燥なレストランチェーンができあがるだけだ。そこで王将では、それと並行して従業員教育に力を入れている。本社内に調理設備を設置し、店長経験者を講師にした「王将調理道場」を開設したほか、座学で店舗マネジメントを学ぶ「王将大学」も設置した。
渡辺社長は就任後、経営理念を「お客さまから『褒められる店』を創ろう!」に改めた。そのために必要なのが、従業員が楽しく明るく働ける労働環境を提供することだと渡辺社長は言う。
「まず従業員満足度(ES)を上げ、次に顧客満足度(CS)向上を目指す」(渡辺社長)
この、CSよりもESを優先させるのが王将のユニークなところだが、この方針があるからこそ、コロナ禍でも従業員がモチベーションを持ち続けることができた。それが、顧客の支持につながり、今の好業績を生んでいる。