8歳から不眠に悩み画期的「目覚まし時計」開発 苦難乗り越えた社長が辿り着いた理念

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竹田浩一さん(ムーンムーン代表/睡眠改善インストラクター)

 睡眠で困っている人の悩みを解決する──をコンセプトに、光で起こす目覚まし時計や、横向き専用枕など、ユニークな睡眠グッズを開発・販売。その代表は、睡眠改善インストラクターの資格も持ち、大学や企業などで睡眠講座を開催するほか、テレビや新聞・雑誌などにも睡眠の専門家として多数出演している。

 睡眠を仕事にしたきっかけは、自身が8歳から不眠に悩まされてきたからだ。

■100万円も安眠グッズに費やした

「母と弟はすぐ寝られるのですが、僕だけ床に入っても2~3時間寝られず、悶々とする毎日。今思えば、眠る前に激しい運動をしたり、お風呂で温まり過ぎたり、入眠に悪いことをやっていたからなのですが……。睡眠グッズもいろいろ試しましたが効果なし。トータルで100万円以上は使いましたね」

 大学時代に研修用の映像コンテンツを作る会社を起こすと、完全に夜型に。朝5時に寝て、昼に「笑っていいとも!」が始まる頃に起きる生活を送っていた。

「夜遊びして朝帰宅すると、公園でおじいちゃん、おばあちゃんが元気にラジオ体操をしている。羨ましく思ったものです」

中国の工場との交渉に悪戦苦闘

 そんな睡眠生活が劇的に改善したのは28歳の時。ある睡眠グッズに出合ったからだ。

「友達からアメリカ製の“光で起こす目覚まし時計”を薦められて試してみたら、朝5時にバチッと目が覚めたんです。すると夜は22時ぐらいに眠くなるのでそのまま睡眠。そんな具合に、夜型から朝型に切り替えることができたんです。20年来の悩みが解決しました」

 時間になると、ライトが顔を照らしてスッキリした目覚めを促してくれる「光で起こす目覚まし時計」。当時、日本では大きな医療用機器はあったが、一般向けの卓上サイズはなかった。「これを作って売れば、自分と同じように睡眠に悩む人を助けられるかもしれない」と思い、それまで経営していた会社とは別に、睡眠グッズを作る会社「ムーンムーン」を立ち上げた。

「時間になると光がつく時計など簡単に作れる」とタカをくくっていたが、中国の工場に20万円払ってサンプルを依頼するとまったく違うものが届いたり、お金を振り込んだのに音信不通になったりと前途多難。半年たっても製品化のめどが立たなかった。

 仕方なく、アメリカのメーカーに問い合わせし、「自分はおたくの商品で不眠が治った。だから日本向けに作って売りたい」と頼み込んだ。最初は足元を見てとんでもない個数や値段をふっかけてきたが、「最後はアメリカに渡って直談判。どうしても売りたいと熱意を伝えたら、わかってもらえました」。

原価にはね返り3万円の高額商品に

 さっそくアメリカで売っているものを、日本向けにカスタマイズして販売。すると、物珍しさもあり、ネットを中心にヒット。マスコミにも取り上げられた。

「そうなると、ますます自分でオリジナル商品を作りたくなってしまって……。もともと海外仕様なので大きいし、デザインも少し武骨で、満足していませんでした」

 そこで、3年目くらいに2代目の自作を決意。今度は中国の工場との交渉もうまくいったが──。

「細部までこだわり過ぎたのか、故障がかなり多かったですね。確実に目を覚まさせるためには大きな光量が必要で、それが原価にはね返って約3万円と高額。だからお客さまから何度もお叱りを受けました。私も期待に応えられず、心苦しい思いでいっぱいでした」

 壊れるたびに問題点を調べ、中国の工場に修正を依頼していたが、それがあまりにも頻繁だったので、「向こうは明らかに嫌がっていました」。

 そしてついに、事件が起きるのである。

1000万円トンズラ被害、熊本地震被災を乗り越えて

「次の生産分のお金を支払ったら“おまえらみたいなうるさい会社の商品はもう作りたくない。何度も作らされて迷惑しているから、この金をもらっておく”と逃げてしまったのです。顧問弁護士に相談しても、“海外相手では裁判しても難しいので切り替えて次の一手を探そう”とアドバイスされるだけで……」

 損害額は1000万円。当時の会社規模としては巨額だ。それ以上に、売るものがなければ会社は潰れてしまう。しかし今から別の工場を探している暇はない。ダメもとで最初にOEM商品を作ってくれたアメリカのメーカーに連絡した。ただし、事情を話して泣きつけば、足元を見られる。

「新しいモデルを作りたいんだけど……と強がって言ったら、あっさりOK。以前の商品が結構売れていたので、私たちはおいしい客だったのでしょう。“ぜひもう一回やりましょう”と、トントン拍子に進みました」

 商品ができるまでは、予約販売でしのいだ。そして2016年3月、新商品を発売。客に大きな迷惑をかけることなく、創業以来最大の危機を乗り切った。

 しかしその直後の4月、再びアクシデントに見舞われる。最大震度7を記録した熊本地震だ。

「会社が震源地に近い古い雑居ビルに入っていて、入り口のドアが開かないくらい損壊してしまいました。せっかく新商品が順調に売れだしていたのに、事務所が使えなくなったのです。スタッフも家が被災するなどして、何人か辞めてしまいました」

 当時は熊本市全体が混乱し、新しい事務所はなかなか見つからなかった。残ったスタッフは全員在宅勤務。ようやく新しい拠点が見つかったのは、地震から3カ月も過ぎた7月だった。

「支えになったのはお客さまでした。僕たちが熊本の会社だと知っているので、がんばって! と応援購入を結構してくれたのです」

社員を17時に帰宅させ「きっちり睡眠」が社則

 支援の輪は全国に広がり、むしろ以前より売り上げが増えたほど。「これほど人の善意がありがたいと思ったことはなかった」と振り返る。

 しかし、にわかに成長したことで、道を踏み外してしまう。

「会社も好調だから品揃えを増やそうと。しかも、どこにでも売っているような安眠枕を原価を抑えて売り、大きく儲けようとしてしまったのです」

 それからの3年間を「迷走期」と呼ぶ。アイテム数を増やしたことで確かに売り上げは伸びた。だが、広告費に頼る売り方だったので、利益率は逆に低下。それでも一応売れているし、一度決めたことは曲げない性格だったので、なかなか軌道修正できない。そんなとき、スタッフがこんな言葉を投げかけた。

「本当にお客さまのためになっていますか?」

 そもそも会社を立ち上げたのは、自分と同じように不眠で悩む人を救いたかったから。企業理念を見失っていたことに、気付かされた。

「その一言にハッとさせられましたね。これからは悩み訴求型商品一本にしぼってやっていこうと、決意を新たにしました」

 これを機会に、良くも悪くもワンマンだった経営体制を見直し、よりチームワークを重視した運営方法にシフト。「みんなの力で100億円企業を目指す」と意気込む。

 ちなみに会社は夕方5時には全員退社、家族など大切な人とゆっくり過ごし、次の日のためにちゃんと寝るのが社則。まさに睡眠に特化した健康企業である。

(取材・文=いからしひろき/ライター)

▽竹田浩一(たけだ・こういち)1982年、熊本県熊本市生まれ。8歳から不眠に悩み、睡眠グッズに投資すること100万円以上。28歳の時、「光で起きる概念」を知ったことで悩みが解消。同じように不眠で悩む人を救いたいと、睡眠グッズの製造・販売会社ムーンムーンを設立する。現在は朝5時に起き夜22時には寝る生活。睡眠改善インストラクターの資格を活用し、大学や企業などで睡眠講座を開催。テレビや新聞・雑誌などにも睡眠の専門家として多数出演している。

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