「生産者の顔」が分かるコーヒー豆を販売 グアテマラ人社長の日本愛と一念発起ぶり

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「GOOD COFFEE FARMS」代表取締役CEOカルロス・メレンさん

 日本人の国民的飲料といえるコーヒー。しかしあなたは、どこの誰が栽培したコーヒーを飲んでいるかご存じだろうか。

 今回登場のこの人は、日本を拠点に、母国グアテマラの農園で安心安全なおいしいコーヒーを作っている人。日本でも“生産者の顔”がわかる野菜や米が人気だが、その輸入コーヒー版で、味がいいと評判だ。話を聞くと、知らなかった過酷な生産現場が初めて見えてくる。

 幼少期にグアテマラで内戦を経験。主戦場の地方を逃れ、家族で街を転々とする生活を余儀なくされた。

「ただし家族を誰一人失わなかったのはラッキーでした。14歳でTシャツを売るなどしましたが、それは生活のためというより、ビジネス精神を養うため。この時から世界を舞台に仕事がしたいと思っていました」

 内戦は15歳の時に終結。ようやく安心して暮らせるようになると、世界をめぐる夢をかなえるため、旅行の専門学校に通い出す。そしてインターンとして働いていた市内の旅行案内所で、一人の日本人旅行者と出会った。これが運命を大きく変えた。

「日本人に会うのは生まれて初めて。それまで日本といえば侍や忍者のイメージしかありませんでした。英語の勉強も兼ねて話しかけたら、向こうのスペイン語(グアテマラの公用語)がうまくて面食らいました。でもそれがきっかけで意気投合。わが家にホームステイするほど仲良くなり、ついには『日本に来ないか?』と誘われたのです」

18歳で来日、仕事を転々とした

 実は卒業したらアメリカに行こうと思っていたという。しかし地球の真裏にある日本に行く機会などめったにない。決心して2000年、18歳の時に来日。運良く仕事を見つけ、そのまま3年間滞在する。

 その後、世界各地を旅して回ったが、「日本は第二の故郷」との思いから、06年に再来日。縁あって札幌の日本語学校に通いながら、さまざまな仕事に就いた。その頃、意外な人物と友達になる。

「北海道日本ハムファイターズのセギノール選手です。彼はパナマ出身、僕は同じ中米のグアテマラ出身で、どちらもスペイン語が公用語。札幌のキューバ料理店で知り合って、あっという間に仲良くなりました。週に3回は会って食事したりしましたね」

 知り合ったその年に日ハムは日本一に。日本シリーズ第5戦で、セギノール選手が打った決勝ホームランのことを、今も忘れられないという。

「その時、僕は札幌の印刷会社に勤めていて、〈日本ハムファイターズ優勝おめでとう〉という看板を作りました。お披露目の時にはマスコミもたくさん来て、写真に写ったりもしましたよ」

 同じ中米出身のセギノール選手が活躍するのを見て、自分も何かを成し遂げたいという気持ちをさらに強くした。その何かが「コーヒー」だった。

「日本では、グアテマラ人と自己紹介すると“コーヒーのおいしい国?”と言われます。それまでは他の国と比べて無名なグアテマラ出身であることを恥ずかしく思っていましたが、コーヒーなら誇れると気づいたのです」

■あまりに問題が多い輸入コーヒー豆の生産・脱穀現場

 その頃すでに個人でコーヒー豆を輸入し、コーヒーショップに売り込んでいたが、コーヒービジネスの知識がなかったため、うまくはいかなかった。

「まずは貿易の勉強をしなければ」と、08年に上京。さまざまな仕事を1年ほど経験し、ようやく横浜の貿易会社で働く機会を得た。

 そして11年、自ら貿易会社を設立。中古車や使い捨てカイロなどを海外に輸出する仕事をしつつ、念願のコーヒーブランド「DARKS(ダークス)」を立ち上げる。グアテマラ産コーヒーをグアテマラ人が厳選するというコンセプトが受け、贈答用としてヒット。

 しかし、それがきっかけで、母国グアテマラはおろか世界中のコーヒー原産国が直面している搾取や地球汚染の問題に気づかされるのである。

自転車脱穀機「ドライ・バイシクル・パルピング」を使って現地で精製

 生産者が分かるグアテマラ産のコーヒー豆を、電気も燃料も水も使わない自転車脱穀機「ドライ・バイシクル・パルピング」を使って現地で精製。日本のコーヒー好きから“安心安全で、しかもおいしいスペシャリティー・コーヒー”との高い評価を受けている。

 18歳の時にグアテマラから日本にやって来た。そしてさまざまな仕事に就いた末、2011年、グアテマラ産コーヒーの高級ブランド「DARKS」を立ち上げる。

「その時はまだ、業者が輸入した豆をセレクトして販売するだけでした。しかしお客さまにいろいろ聞かれ、産地のことを調べているうちに、知っていたことよりもっと大変なことが分かったのです」

 それは世界中のコーヒー産地が直面している不都合な現実だ。例えば小規模農家が収穫したコーヒー豆は大規模農園に集められるが、全て一緒くたにされ、いわゆるトレーサビリティーはない。つまり誰が作っているのか、極端な話、農薬を大量に使っていても、盗まれたものであっても分からないのだ。

 さらに精製には大規模な機械が使われ、電力、燃料、水を大量に浪費。排出された二酸化炭素や汚水は、自然環境を破壊していた。

 何より小規模農家はせっかく丹精込めて作った豆を安く買い叩かれ、貧しい生活を余儀なくされていた。

「そうした問題があることを何となくは知っていましたが、そこまで深刻だとは思いもしませんでした。このままではダメだと思いました」

 とはいえ自分ひとりでどうこうできるほど簡単な問題ではない。同胞の生産者の苦労に心を痛めながらチャンスを待った。

母国の生産者農家の“不都合な現実”を知り一念発起

 2016年、その時が来た。現地でコーヒー工場を建設できる機会を得たのだ。しかし大幅な円高で、当時経営していた貿易会社は大赤字。手元には20万円しか現金がなかった。

 だが、コーヒー豆の収穫は1年に1回。このチャンスを逃したら1年待たなければならない。

「自分の車を売ったり、借金をしたりして、なんとか建設費用を工面しました」

 その際、精製には大規模な機械を使わず、前記した自転車脱穀機「ドライ・バイシクル・パルピング」を開発した。これなら環境に優しい上、安価なので貧しい小規模農家でも導入しやすい。

「無農薬で栽培し、豆の選別は全て手作業。出荷まで生産者が責任を持つことで、コーヒー豆に付加価値をつけられると考えたのです」

 しかし問題は農家たちの意識だ。これまで大資本に搾取され続けてきたため、努力する気持ちを失っていた。そこでカルロスさんは日本での経験を伝えた。

「私が日本に来て一番びっくりしたのは、トイレ清掃する人が“失礼します”とお辞儀をして入って来たこと。なんて礼儀正しく仕事熱心なんだろうって! だから戦争の後は大変だったけど、すぐ世界有数の国になったんだと感動しました。残念ながらわが国にはないスピリッツ。これを工場に持ち込みたいと思いました」

 そのためにカルロスさんが取り入れたのは日本式の「朝礼」。毎朝その日の目標を共有し、最後に「がんばろう!」と日本語で声をかけあった。

 また、揃いの白いユニホームを全員にあてがった。チームの団結力を引き出すためだ。

 そして、「誰かが手を抜いたり、いい加減な物を作ったりすれば、全員の努力が無駄になる」と、口酸っぱく伝えた。

 そのかいがあり、2019年に日本に初出荷したコーヒー豆は、世界的なコーヒー専門家のお墨付きを得ることができた。

 直後にコロナ禍に見舞われたが、SDGsの流れにも乗り、現在まで口コミで取扱店を100カ所以上に増やしている。

 そして沖縄に自社の研究拠点を設立。日本のみならず、世界中のコーヒー生産者に、地球環境にやさしいコーヒー豆づくりのノウハウを広げたいと考えている。

「日本のコーヒー好きが、毎日毎日、何十年も飲み続ければ、そのコーヒー代は何百万円にもなります。そのお金を、地球を壊すために使いたいですか? 地球を守るために使いたいですか? 僕は1杯のコーヒーで世界を変えられると思っています」

 グアテマラから来た青年の夢は、日本から世界へ羽ばたこうとしている。

(取材・文=いからしひろき/ライター)

▽カルロス・メレン 1981年、グアテマラ共和国グアテマラ市出身。幼少期に内戦を経験。18歳の時に来日し、スポーツ用品販売や貿易などさまざまな仕事を経験。2011年にグアテマラコーヒーブランド「DARKS」を立ち上げるも、現地生産者の搾取や環境汚染などの実態を知る。17年に持続可能なコーヒー作りをコンセプトとする「DARKS Coffee Quality System」を設立。精製時に一切電力や水を使わない自転車脱穀機「ドライ・バイシクル・パルピング」を使ったグアテマラ産コーヒーは、品質の高さでも注目を集める。19年に「GOOD COFFEE FARMS」へ名称変更。

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