健康メニューも受けられる美容室が銀座に 画期的サービスはどのように生まれたか?

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「JAY Performance」社長・中嶋一嘉さん

 美容室でのカットやパーマの間に、健康診断や体質改善メニューが受けられる画期的なサービスを昨年8月にスタート。コロナ禍で美容業界全体の来客数が減るなか、リピーター獲得と客単価アップに成功。他店からも導入の問い合わせが相次ぐ注目のオーナーが中嶋一嘉さんだ。

 気鋭のトップが経営している銀座の「1%er professional(ワンパーセンタープロフェッショナル)」には、タニタの最上位体組成計(1台220万円ナリ!)や指先の毛細血管の血流が見える特殊なモニター、アスリートが利用する医療用EMS(電気的筋刺激装置)、水素吸引器など、およそ美容院では見かけない本格的な健康機器がズラリ。これらを無料、あるいは1000円程度からのリーズナブルな料金で体験できる。いずれも医師などの指導を受けており、効果と安全性は折り紙付きだ。

 そもそも理美容室は、同じ店に長年通う常連客が多く、しかも月に1回程度定期的に利用。パーマやカラーリングの最中など隙間時間も多く、プラスアルファの健康サービスを導入するにはうってつけだ。だが意外にもこうしたサービスはなかった。なぜ発想できたのだろう。

 東京の墨田区に生まれ、高校時代は、地元でも有名な“ヤンチャ”少年。情に厚く、人を直接感動させられる仕事に就きたいと美容師を選んだ。

「最初は花火師になるつもりでした。人のためにということで、レスキュー隊員も考えたのですが、体力的に無理だと諦めました。美容師になろうと思ったのはたまたま。だから美容そのものには、今もあまり関心がないんです。お客さまともヘアスタイルについてはあまり話さないですね。どんなふうに見られたいのか、どんな気持ちで生活したいのか、髪形じゃなくてその人の人間像をつくるのが僕の仕事だと思っているので」

 美容には興味がないと言いつつ、その道のプロとして誰にも負けたくない気持ちは人一番強い。

 新人のころから必死で勉強し、腕を磨き、籍を置いていた大手美容室チェーンで一目置かれる存在に。売り上げもナンバーワンが定位置になった。

「美容師は髪だけをやる仕事」って誰が決めたの?

 しかし、アメリカ帰りの古いカメラマンの友人に言われた一言が、意識をガラリと変えた。

「彼は日本にいる格好良い人たちをモデルに写真集を作ろうと帰国したのですが、会うなり僕にこう言ったんです。『おまえは何年美容師をやってるんだ? みな同じ格好で個性もないダサいやつらばかりじゃないか。おまえは東京で人を格好良くする仕事をしてるんだろ?』と。まさか美容室は髪だけやってりゃいいとは言い返せません。恥ずかしかったのと同時に、美容師が髪だけやる仕事だなんて誰が決めたんだ? と、全身をカミナリに打たれたようなショックを覚えました」

 それをキッカケに客をトータルプロデュースする仕事を始めた。髪形やメークはもちろん、服装のコーディネート、表情や個性のつくり方、しゃべり方や歩き方まで、時にはその道のプロの力を借りて、ひとりの人間そのものを輝かせようとしたのだ。

 そうした取り組みは、美容師としてのキャリアにも好影響を与えた。それまでかすりもしなかった美容コンテストで優勝を果たすようになり、テレビ東京系の人気番組「TVチャンピオン」の美容師・スタイリスト部門で優勝。それをきっかけに、バラエティー番組の視聴者変身コーナーの担当をレギュラーで務めるなど、一躍カリスマ美容師の仲間入りを果たした。

 会社内でも着実にポストを上げていき、2006年には20店以上あるグループ全店の総店長に就任。しかし“髪だけでなくその人自身を輝かせたい”という考え方が、会社の方向性と合わなくなってきたため独立。2013年、45歳で銀座に自店をオープンした。

きっかけは常連客の病気や死

 そもそも中嶋さん実力は折り紙付き。メディアにも多数出演し、知名度も申し分なかった。何より30年近いキャリアで積み重ねてきた客の信頼はピカイチ。そうした常連客に支えられ、経営は順調だった。

 しかし、一抹の不安が。それは常連客の健康だった。

「長い人はそれこそ僕が新人だった頃からの付き合い。ですが、体調を崩して店に来られなくなる人が増えてきたんです。残念ながらお亡くなりになる方もいて、そういう時は“おくりびと”としてお手伝いさせていただくのですが、その都度すごく寂しい気持ちになるんです。あれだけ親しく付き合ってきたのに、美容室に来られなくなったら“おまえの出る幕じゃない”と言われているような気がして……」

 もちろん病気になったのも、亡くなったのもオーナーのせいではない。治療するのは医師の役目だ。しかし、「美容師である自分にも何かできたのでは」と考えるようになる。そして思いついたのが、美容室で健康診断や体質改善のメニューが受けられる今のサービスだ。

「美容室に来たついでに健康に目を向けてもらい、いつの間にか未病がなくなったり、大きな病気の早期発見につながったりすればいいなと。健康のためだけだと面倒くさいかもしれませんが、美しくなるため、格好良くなるためなら、話が変わってくるのではないかと思ったのです」

健康食品の押し売りと勘違いされ、怒って帰る客も

 さっそく医師の監修のもと、数百万円の費用をかけて、体組成計や水素吸引器など本格的な機器を揃えたが……。

「思いのほかウケなくて。そりゃ、普通に髪の毛を整えに来たのに、やれ検査させろ、やれ生活習慣のアドバイスさせろって言われたら、いい気はしないですよね。怪しい健康食品でも売りつけられるんじゃないかと心配にもなるでしょう。実際、怒って帰ってしまったお客さまもいらっしゃいました」

 もうひとつ大きな壁があった。それは従業員の意識改革だ。

「面接の時には、うちは健康を重視する店だからって説明するんですが、いざとなると“何で美容と関係ないことをやらなきゃいけないんだ”ってなるんです。実際辞めちゃった子もいますしね。僕からしたら、こっちのほうがお客さんのためになるのになぜやろうとしないんだ? って話なんですけど」

 それでも客には丁寧に意図を説明し、従業員には口酸っぱく「美しくなることは健康になること」と説いた。

 すると、少しずつ両者の意識は変わっていった。客の中には、計測した数値が気になり病院に行って大病の早期発見につながったケースも出始めた。さらにはビジネス上のメリットも。

「普段スポーツジムに行ったりして健康意識の高い人ほど、うちが揃えている器具がどれくらい価値のあるものか分かってくれるんです。だから同じように意識の高い人や、自分の母親など健康が気になる年上の人を紹介してくれることが増えましたね」

 そして、水素吸引や高周波EMSなど有料メニューのおかげで、客単価アップにもつながっている。何よりも“髪形だけでなくトータルで人を輝かせる”というポリシーを体現していることが大きいという。

「人生をかけてやるべきことがついに見つかった感じ。このサービスが全ての美容室に普及するまでブレずにやり抜きますよ。将来“昔の美容院は髪だけやっていたらしいよ”と言われるようになるのが夢です」 =この項おわり

(取材・文=いからしひろき)

▽中嶋一嘉(なかじま・かずよし)1968年、東京都墨田区出身。美容師を志し、86年、「クロード・モネ」入社。94年、FNSスーパースターヘアデザイナー大賞・フジテレビ賞、97年、TVチャンピオン美容師スタイリスト日本一王座決定戦優勝など受賞歴・テレビ出演多数。2006年、グループ総店長就任。13年、自らの美容室「1%er professional」を銀座にオープン。20年から美容室で健康診断や生活習慣・体調改善メニューが受けられるサービスを開始。

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