戦場カメラマン渡部陽一さんが危惧「アフガンは再び過激派の温床になる」

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渡部陽一さん(戦場カメラマン)

 アフガニスタンの混迷が日増しに深まっている。バイデン米大統領がアフガンからの米軍の撤退完了を宣言してからわずか3日で、イスラム主義勢力タリバンがアフガン全土の完全掌握を表明。現地には外国政府に協力したアフガン人や、その家族が数多く取り残されている。アフガン情勢はこれからどうなるのか――。約30年にわたり、中東取材を続ける渡部陽一さんに聞いた。

*インタビューは【動画】でもご覧いただけます。

 ◇  ◇  ◇

 ――米軍撤退完了から全土掌握表明まで電光石火の動きでした。

 アフガン政権が率いた治安部隊や国軍、警察は皆が皆、きちんと訓練を受けていたわけではありません。仕事がない若者をリクルートし、警官や兵士として検問所に立たせたり、各地方に派遣したりしましたが、給与も払われず、兵隊や警察という権威を背負わせて全国に散らばせていたのが実態です。要するに、タリバンに対抗する力をほとんど備えていなかったのです。そして、抑止力となっていた米軍を中心とする各国軍の撤退がタリバン大躍進の引き金となりました。

 ――タリバンは反転攻勢のチャンスをうかがっていた。

 米軍が主体となって、前線部隊がタリバンを叩いていたのですが、今年5月から米軍が段階的に撤退を始めたことによって、アフガンの各地に力の空白地帯が次々に生じました。そこにタリバンが入り込み、最初は西部のヘラートや北部のクンドゥーズなどの地方都市を制圧していったのです。

 ――その過程で、タリバンは力を強めていった?

 兵力を拡大したというよりも、むしろ縮小しながら細分化して市民の中に潜り込んでいたと言った方が適当かもしれません。厳格なイスラム思想に基づき、地方都市や村で暮らしながら局地的な戦闘やテロ行為をゲリラ的に行っていたのです。特にパキスタンとの国境の山岳地域、第2の都市である南部カンダハル州やヘルマンド州一帯では、民間人に紛れたタリバン兵がたくさんいます。最前線の米軍兵士は村々を巡回しながら、そうした兵士を捕らえたり、資金源だった麻薬原料のケシ畑を摘発したりしてきました。

 ――米軍撤退に伴い、身を潜めていたのが表に出てきたのですね。

 米軍の従軍カメラマンとして最前線で動いていた時、タリバンと接触することもありました。タリバン兵は米兵のようにヘルメットをかぶったり、防弾チョッキを着たりしないので、「コンバット部隊」という感じではありません。仕事がなく、タリバンと連携しないと生きていけないような若者たちが民族衣装のまま、ソ連時代のAK47カラシニコフ銃を手にしているのです。彼らは保守的な考えを持ち、住んでいる土地を心から愛し、厳格なイスラム思想が唯一生きる希望の若者です。少し幼さが残る子でも、手作りの手りゅう弾を持ち、農民の格好をして自爆テロを仕掛ける。パッと見は農民でありながら「こんにちは」と近寄ってきて、爆破することもあります。厳格な思想を通じて国を愛する貧しい若者を利用しているのがタリバンなのです。

融和プロモーションにだまされるな

 ――暫定政権の顔ぶれが出てきています。

 タリバンは、アフガンはアフガン人が統治していく、イスラム首長国を樹立する、というメッセージを出しています。これは、厳格なイスラム思想に沿った国家運営と生活をアフガンに浸透させ、それ以外の民主的な自由やルールはイスラム法にのっとって排除するという宣言でもあります。女性の就業、子供の教育、欧米文化などを全て強制的に排除していくでしょう。タリバンのムジャヒド報道官は、女性も仕事ができる、自由な教育環境を整える、と言っていますが、プロモーションに過ぎないと思います。アフガンに暮らしている人々は、そうした宣伝を信じていません。1996年に誕生したタリバン政権は2001年に崩壊させられた。同じ轍を踏まないよう、世代交代したタリバン幹部たちが融和路線を外に打ち出しているのです。

 ――変化は期待できない?

 タリバンの残虐性はカブールで見えなくても、カンダハルや第3の都市ヘラート、北部のマザーリシャリーフや東部のジャララバードなどの地方都市では、その地域を支配するタリバンが厳格なイスラム法にのっとって外国とつながる関係者を処刑したり、対米協力者を夜間に一軒一軒訪れて拉致したりしています。子供も女性も外に出ることができない。経済インフラがメチャクチャなので、お金も手に入らない。タリバン支配下での無法状態になっている状況です。生活環境が壊されてしまったからこそ多くの人が逃げるために国際空港へ集まりました。

 ――タリバンの支配を歓迎する住民はいない?

 米軍の撤退に祝砲を撃ち、旗を立てて騒いでいる様子が報じられていますが、タリバンに同調しなければ引きずり出されて処刑される恐れがあります。下手をすれば、本人が粛清されるだけでなく、その子供が拉致されたり、家族の遺体が家の前に置かれたりする。地方都市だと親族や家族の関係が密なので、街のどこに誰が住んでいて、親戚が誰で、その親戚の子供がどの学校に通っていて、先生は誰か、というような情報まで分かってしまう。多くのアフガン人が地方都市からカブールに逃げ、少しでも足跡を消そうとしています。カブールの大きな公園の中に布を張り、スラムで暮らす方が、一日でも長く生き延びられる可能性があるからです。

 ――タリバン新政権が国家として機能するとは思えません。

 イスラム首長国としてのタリバンの最大の原動力は海外からの承認、つまり、政権を認めてもらうことです。そこで最重要となるのが、中国の動きです。アフガンは中国の掲げる「一帯一路構想」の分岐点なので、パキスタン方面や中東方面に抜ける経済圏ルートの確立には、アフガンを押さえておく必要があります。中国は内政不干渉を掲げて資金援助をする代わりに、一帯一路の経済ルートの保障を狙っています。さらに、中国にとってはタリバンと手を組んで、ウイグル自治区での東トルキスタン・イスラム運動を抑え込むこともできる。中国とタリバンはウィンウィンなのです。

■資金不足で「人質外交」の懸念

 ――タリバンと関係良好なカタールの支援により、カブールの空港の国内線が再開しました。

 海外に逃げたい人を脱出させられる出入り口を友好的に確保することが目下の課題ですが、タリバンが希望者の海外脱出を保証するとは思えません。技術を持っている職人はもちろん、敵対する人物は粛清対象なので、絶対に逃がすことはない。軍事的な圧力を受けるか、財政的な交渉に入らない限り、解放しないでしょう。タリバンは国際空港の管制塔を管理できないため、トルコやカタールに管理して欲しいとメッセージを送っています。一部の民間機が出入りできるようになるのが理想とはいえ、現実は厳しいと思います。

 ――どのような交渉が必要でしょう?

 タリバンは現金が枯渇しているので、金銭的な交渉には、まず手を伸ばしてくるでしょう。バイデン大統領がアフガン国内に残された米国籍を持っているアフガン人や米国人を救出すると言っているので、タリバンが人質外交を展開することも考えられます。人道支援に入ったNGOや国連職員も例外ではありません。

 ――ひどいシナリオです。

 タリバン政権は今後、存続のために中国やカタールの支援を受け、世界の過激派と連携すると思います。アフガンは過激派の温床になる可能性がかなり高い。ムジャヒド報道官はオープンな国家運営をアピールしていますが、議会選挙や大統領選挙を実施したとしても形式上に過ぎず、実際は監視下に置いた出来レースになってしまうのではないか。この20年間においても、不正や汚職がはびこり、民主的な国家運営は根付きませんでした。大統領の上にイスラム法学者が存在するイランのように、イスラム法学者がタリバンを超えて「最高指導者」になれば、イスラム法の教えに沿ってタリバンを管理する体制が50年、100年のスパンを経て築かれるかもしれません。しかし、今後5年、10年はシリアのように内戦が続くと思います。危機管理と安全を最優先に、現地や周辺の取材にも行きたいと思っています。

(聞き手=高月太樹/日刊ゲンダイ)

▽渡部陽一(わたなべ・よういち) 1972年、静岡生まれ。明治学院大法学部卒。学生時代から世界の紛争地域を専門にアフガニスタン、イラク戦争、ルワンダ内戦、コソボ紛争、ソマリア内戦などを取材。

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