スポーツ用品大手「アルペン」コロナ禍のアウトドアブームで過去最高益
東京五輪効果とアウトドアブームでスポーツ用品業界は好決算に沸いた。
スポーツ用品大手のアルペンの2021年6月期の連結決算は純利益が107億円だった。前年はわずか1700万円だったから様変わりだ。売上高は前年比7.0%増の2332億円で、売り上げ、利益ともに過去最高を更新した。コロナ禍で3密を避けられるレジャーとしてゴルフやキャンプが人気を集めた。
既存店売上高は同4.2%増。新型コロナウイルス感染拡大に伴う部活動の制限でサッカーなどの競技スポーツ用品の売り上げは伸び悩んだが、ゴルフやアウトドア関連は同10%以上伸び、業績を牽引した。
ゴルフは初心者向けの製品が特に好調だった。専門店の「ゴルフ5」(195店=8月末)では全店に初心者の相談窓口を設置し、新しい需要を積極的に取り込んだ。ゴルフ関係の売上高は889億円で前年比17.8%増。最も高い伸び率を記録した。アウトドアに特化した専門店「アルペンアウトドアーズ」(14店)で稼いだ。
アルペンは1972年、名古屋市でスキーのプロショップとして産声を上げ、80年代のスキーブームとともに成長してきた。
もともと変わり身の早さが身上の会社だ。現在はスキーやスノーボードなどのウインタースポーツ用品が全体の売り上げに占める割合は2.8%に過ぎない。野球、サッカーやスポーツアパレルが1337億円と過半(57.3%)を占める。
22年6月期は会計基準の変更で単純比較はできないが、純利益は115億円を見込む。株式市場では五輪の反動もあり、「業績は伸び悩む」との指摘もあったが「さらに続伸するのはサプライズだった」(スポーツ業界を担当するアナリスト)。配当を年50円と5円増配するのと相まって株価は急騰。8月13日には一時、年初来高値の3865円をつけた。
苦境を乗り越えて過去最高益を達成
アルペンは数年前まで業績悪化に苦しんでいた。19年1月、社員の1割に相当する300人の希望退職を募集。21年2月には、創業者で会長の水野泰三が強制わいせつ致傷の疑いで逮捕(不起訴)されるスキャンダルに見舞われ、会長辞任に追い込まれた。
そんな苦境を乗り越えて過去最高益を達成したわけだ。今年6月にはコロナ禍で業務に精励し、業績拡大に貢献した従業員に報いるため、アルバイトを含む全従業員を対象に総額7億円の特別一時金を支給した。
創業者、水野泰三の長男である2代目社長の水野敦之は、ポストコロナ時代をどう乗り切ろうとしているのか。幼少期からスキーに熱中。法政大学在学中、アルペンスキーの選手として冬季オリンピックの出場を目指したが、ケガで断念するという苦い挫折を経験している。
「現在、最も力を入れているのがティゴラというブランド」
昨年9月、都内で開いた展示会で社長の水野は、こう力を込めた。ティゴラは06年に立ち上げたプライベートブランド(PB)。インナーやランニングシューズを売り出し、近年、主力事業に育ちつつある。
6月11日、東京23区内に初めて、ティゴラの直営店を新宿駅南口の商業施設フラッグス3階に、1年間の期間限定で出店した。
ただ、アパレルには逆風が吹き荒れている。コロナ禍、アパレル老舗のレナウンが経営破綻し、アパレル不況は深刻の度を深めた。ワクチン接種の進展によって、日常生活が戻ってきた時、アルペンのスポーツアパレルは市民権を得られているのか。
世界を見渡せば、ナイキ、アディダスなど名だたる巨人がシェアの分捕り合戦を繰り広げている。(敬称略)