コスモス薬品は食品を武器にドラッグストア業界3位に躍進
ドラッグストアの業績に格差がつき始めている。インバウンドを取り込んできたチェーンが停滞する一方、食品を地道に拡充したところの成長に弾みがついた。
福岡県を地盤とするコスモス薬品が「フード&ドラッグ」の代名詞となっている。2021年5月期の連結売上高7264億円は、ウエルシアホールディングス(東京、9496億円=21年2月期)、ツルハホールディングス(北海道、9193億円=21年5月期)に次いで業界第3位。期末の店舗数は1130店で、並み居る大手の半分、業界8位の規模なのに大躍進を遂げた。
大手チェーンがM&A(合併・買収)を繰り返して規模を拡大してきたのに対し、コスモス薬品は一度もM&Aをやらずに売上高3位の好位置にまで駆け上がってきた。業界で「西のドラッグストアの雄」と呼ばれている。
「我流」の出店戦略をライバルが警戒
ライバルが警戒するのは、「我流」(会長の宇野正晃)と評する出店戦略だ。人口1万人の商圏に1000~2000平方メートルの売り場面積を持つ大型店を建てる「小商圏型メガドラッグストア」が基本戦略である。加えて、EDLP(エブリデー・ロー・プライス=毎日安売り)を徹底することで集客力のアップを図っている。
来店客はショッピングカートを押し化粧品、日用品、加工食品、酒類などが並ぶ大きな店内を巡る。1階は50台以上入る大型駐車場。都市部で見慣れたドラッグストアとは異なる光景だ。
売り上げに占める食品比率は業界内で驚異的といわれている57.9%に達している。コストがかかる生鮮食品(肉・魚・野菜)を扱わず、加工食品や冷凍、チルド食品に的を絞った形で食品売り場を展開してきた。だが、大手チェーンが生鮮食品を相次いで導入したこともあって、本拠地である九州地区で生鮮食品の取り扱いを始めた。
九州地区でドミナントを形成し終わると、04年に中国地方、05年に四国、10年には関西、そして15年に中部へと進撃。19年4月、東京・広尾に出店して関東に進出を果たした。
郊外型が主力だが、訪日客需要が見込まれる駅前中心部への出店に踏み切った。東京・渋谷の東京メトロ日比谷線広尾駅前に出店したのは、都心部出店強化策の一環である。
東京進出は創業者である宇野の悲願であった。「地盤をしっかり固めてからでないと、東京に出てもすぐに倒れてしまう」と考え、出店は急がなかった。店の強さを磨き込むことに専念してきたわけだが、「生きている間に(東京に)出られてよかった」と、宇野は周囲に漏らしているという。
コスモス薬品は首都圏では無名である。どう戦うのかと観察していたら、調剤事業に本格参入することを決めた。22年5月期に調剤サービスを併設したドラッグストアを関東を中心に20~30店開設する。新型コロナウイルス禍で薬局が薬剤師の採用を手控え、薬剤師を確保しやすくなったこともあり、出店を加速する。
調剤併設型を関東圏で展開することを株式市場は素直に好感した。8月23日の株価は年初来高値の2万200円をつけた。時価総額7896億円はウエルシアHD(8595億円)に次いで業界2位だ。
地方の食品中心の郊外型大型店を得意としてきたコスモス薬品は調剤併設店を武器に、大型再編の嵐が吹き荒れる首都圏に切り込んだ。真価が問われている。(敬称略)