清武英利氏 バブルに踊り失われた“堅気の意識”は戻らない

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清武英利(ノンフィクション作家)

 バブル経済の崩壊からおよそ30年。銀行などを母体とする住宅金融専門会社の見境ない融資競争により、一時6.8兆円まで膨れ上がった不良債権の回収が現在も続いていることをご存じだろうか。整理回収機構と悪質債務者との攻防に迫ったノンフィクション「トッカイ 不良債権特別回収部」がドラマ化。なぜ彼らは、今なお取り立てに走っているのか。著者の清武英利氏に聞いた。

■今も続く回収機構の不良債権取り立て

 ――自主廃業に追い込まれた山一証券で経営破綻の真相究明と清算業務を担った社員の奔走を描いた「しんがり」、外務省機密費流用事件を題材にした「石つぶて」に続き、これでWOWOWで3作目のドラマ化です。

 最初にお話をいただいたときは非常に驚きました。どの作品も批判をたくさん込めている。最初からドラマ化を期待していたわけではありませんが、映像化は難しいだろうとは思っていたんですよ。主人公はいつも巨大な組織を相手に戦った人たちです。「トッカイ」は旧大蔵省や銀行、「しんがり」は証券会社、「石つぶて」は警察や外務省。スポンサーの存在を意識せざるを得ない地上波での放送は厳しいでしょう。ですが、WOWOWは地上波にはできないもの、社会派の骨太ドラマを作ろうという気概がある。聖域に挑もうとするところが僕の考え方と合致しているのかもしれません。

 ――「トッカイ」は回収機構の「特別回収部」の略称なんですね。住専マネーが生み出した巨額の不良債権の中でも、反社会的な悪質債務者からの取り立てが業務。破綻した住専の社員や母体行の行員らを雇い、回収にあたらせる「奪り駒使い」というスキームから過酷さが伝わります。見せ場はどのあたりですか。

 ピーク時に住専各社から1兆円もの融資を受けた「ナニワの借金王」や「怪商」と呼ばれた人々との攻防ですね。ドラマではイッセー尾形さんが「借金王」を演じているんですが、実際こうだったんだろうなあ、とうなりました。というのは、僕は現場そのものを見ているわけではない。複数の関係者から取材した情報を基に、トッカイをめぐる出来事を文字で再現しているでしょう。怪優と評される人が演じると、一気に到達してしまうんだなあと。286億円の融資を受けた「怪商」を仲村トオルさんが演じると聞いて面白いと思いましたね。タックスヘイブンとプライベートバンカーを悪用する資産隠しで、トッカイと20年戦争を戦った人物なんです。

■借金王の返済額は1兆円超え目前

 ――回収機構はこれまでに10兆円超を回収していますが、彼らとトッカイの争いは今も続いているそうですね。

 そう、終わっていないんですよ。債権の消滅時効は10年ですが、借金王に隠し金があるとみている回収機構は時効停止のための訴訟を繰り返し起こし、15年12月に利息を含めて7668億7490万円の返済を求めています。そのうち回収できていない元本分は1646億円。返済額に利息(遅延損害金)が上乗せされるため、毎年約230億円ずつ増える。8年後、つまり23年には返済額が1兆円を超えるでしょう。

 ――個人の負債が1兆円超え。回収できるとはとても思えませんが……。

 借金王とは国内で、怪商とは海外で攻防を繰り広げている。これはもう大変な対決だと思いますよね。なぜトッカイは取り立てを続けているのか? 取れるものがあるのか? そう思う人も多いと思うんですが、回収機構の前身の「住宅金融債権管理機構」から社長を務め、彼らを率いた中坊公平さん(元日弁連会長)は「借りたカネは返せ。当社は死ぬまで追い求める」と訴えていた。「一生、取り立てる」という遺訓は今も生きていて、一本の筋として残っているんだと思います。それがなくなってしまうと、頬かむりした者や隠し通した者たちが勝ってしまう。

公・モラル・信頼感…すべて消えた

 ――住専は旧大蔵省の主導で銀行などを母体として設立され、バブル景気に乗ってデタラメな融資を乱発。その結果、住専マネーの処理に6850億円の公的資金が投入された経緯を振り返れば、逃げ得は許されません。

 中坊さんは「公」の意識を大切にしていました。回収機構は国策会社として生まれましたが、国策といっても、お国のために汗を流す会社ではない。国民にさらなる負担をかけないことが唯一の目的だと考え、社員にハッパをかけていたのです。

 ――中坊氏は著書「罪なくして罰せず」で、〈住専問題とはしょせんは旧住専七社の倒産であり、その後始末をどうするか、である。旧住専七社の倒産に責を負うべきは、七社の経営者、七社を設立し経営者を送り出していた金融機関、さらにこれを指導・監督してきた大蔵省であって、一般の国民は旧住専の倒産にはまったく関係がない〉と書いています。

 住専の母体だった銀行は、自分たちは関係ないという態度で、責任から逃れようとした。最低限のモラル、そしてパブリックという意識が失われた時代だったんです。それは今も同じではないですか。銀行家もそうですが、政治家にはとりわけパブリックの意識を持ってもらいたいものなのに、税金の使い方がすごく乱暴になってきましたよね。

 ――新型コロナウイルス対策で拍車がかかっています。第3次補正予算を含む今年度の予算総額は175兆円超に膨張。当初予算の約1.7倍、単年度予算で過去最大。国の借金は1000兆円が目前です。

 こんなアベノマスクに税金を投入していいわけ? 「Go To トラベル」は強行すべきものなのか?そう思いませんでしたか?ひと昔前であれば国民がもっと怒っていたと思いますよ。それが、すんなり通ってしまう。政治家や官僚によるおかしなお金の使い方がまかり通る傾向は今も変わっていない。そういう意味で、トッカイが取り立てを続けていることは、おかしなことに怒り、そこに光を当てることにもつながるのではないでしょうか。ただ、残念なのは回収機構の発信の少なさ。もっと情報公開をして、回収を続けていると大きな声でアナウンスしてもらいたい。なぜ、僕に情報を提供する人たちがいるのか。回収を続けなければならない意味を知ってもらいたいからではないか、と思うんです。

 ――バブル崩壊で護送船団方式は崩壊し、大手銀はメガバンクに集約。「失われた30年」を経て、アベノミクスの異次元緩和で体力を奪われた地銀の合併など、金融機関の再編案が再び浮上しています。

 金融機関に限らず、栄枯盛衰はある。業界再編は仕方がない面はあると思います。もっとも、銀行などの金融機関に対する強い信頼感はバブル崩壊で消滅してしまった。僕は「堅気の意識」と言うんですが、バブルに踊り、本来は堅気であった人たちが、堅気でなくなった。儲かればそれでいい、という風潮が大手を振っている。

 ――「今だけカネだけ自分だけ」ですね。

 そういうことです。格差はどんどん広がる。堅気でなくなった人たちが、堅気に戻ったかといえば、そこには疑問を感じる。30年前に失われたものは何ひとつ回復していない。むしろ、若者からもどんどん失われている。これが望んでいた世界ですか? 僕は同世代の人々にもそう問いたいですね。

(聞き手=坂本千晶/日刊ゲンダイ)

◆WOWOW開局30周年記念「連続ドラマW トッカイ~不良債権特別回収部~」

 舞台はバブル崩壊後に設立された国策会社「住宅金融債権管理機構」と、その後身の「整理回収機構」。経営破綻した住宅金融専門会社や金融機関の不良債権回収を目的とした組織で、社員は住専や母体行からの寄せ集め。中でも「不良債権特別回収部」(トッカイ)は悪質債務者からの取り立てを担い、業務は過酷を極める。トッカイ班長役で伊藤英明が主演。トッカイ要員で中山優馬、広末涼子、矢島健一、萩原聖人らが出演。住管機構社長役に橋爪功、返済逃れを画策する悪質債務者をイッセー尾形や仲村トオルが演じる。放送は1月17日から全12回。

▽きよたけ・ひでとし 1950年、宮崎県生まれ。立命館大経済学部卒業後、読売新聞社入社。社会部記者として警視庁や国税庁などを担当。中部本社社会部長、東京本社編集委員、運動部長を経て、2004年8月から読売巨人軍球団代表兼編成本部長。ワンマン経営を批判した「清武の乱」で11年11月に専務取締役球団代表兼GM・編成本部長・オーナー代行を解任され、係争に至る。「しんがり 山一證券 最後の12人」で講談社ノンフィクション賞、「石つぶて 警視庁 二課刑事の残したもの」で大宅壮一ノンフィクション賞読者賞を受賞するなど著書多数。

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