なぜ新橋に? 沈没船から引き揚げた10億円の財宝が…
【読み切りドキュメント 美術商の事件簿】(上)
「ねえ、ターさん。いつまで迷ってるの」
「そうは言っても、1000万円だぞ。そう簡単に決められないさ」
「大丈夫よ。ターさん、お金持ちじゃない。それに1年後に10倍の配当になるんでしょう! すごい、1億よ、1億円!」
向かいのソファでさっきから、銀座ホステス風の年増と、スポンサーらしきちょびヒゲのおやじがイチャついている。
私は、ソファに座ったまま大きく背伸びしてから立ち上がった。
隣にいるノブさんに目配せすると出口に向かった。ノブさんもついてくる。
4階のエレベーターホール。2時間前、このホールに立った時は多少、心のざわめきというか興奮みたいなものがあったが、今は別の高揚感だった。ビルを出ると、私はノブさんと近くの喫茶店に入った。