お宝を探せ!政治家の隠し財産vs強制執行ドキュメント<上>
新大久保駅に降り立ち、時計を見ると、ちょうど8時40分。待ち合わせは9時だから、あと20分。カフェにでもと思うのだが、気が進まない。というか、ここに来ることさえ気乗りしなかった。イヤな予感がしていたからだ。
美術商というと、美術という品行方正なイメージもあるが、右から左へ金を流す、という一面もある商売だ。だから、たまに厄介なケースに出くわす。昔、若者にしては珍しくいい品を売りに来るもんだと思っていたら、窃盗団なんてこともあった。
■相手はワイエスの絵画収集家
「明日、駅前で」と言われたのが昨日の夜のことだった。仕事を終えた私は館内で雑務をこなしていた。時計も22時を回っていたので、冷酒を片手に、ひとりパソコンを操作していると、閉まっているドアの向こう側で“ドン、ドン”と音がした。「夜分すまないが、社長に会いたい」と言う男の声。甲高くしわがれた声が響いている。追い返そうかとも思うが、切迫した空気を感じ、ドアを開けた。
目の前には50代前後の小太りの男、その奥にはモデルのような女がいた。「社長は私ですが」と言うやいなや、「鑑定をお願いしたい」とのこと。女は無表情で、ただこちらを見つめている。「品物は?」と聞く。すると、「今はない。品物についても言えない」と、こうだ。