映画「ドライブ・マイ・カー」で注目 妻が若い男と浮気…なぜスルーできるのか?

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 妻を失った男の喪失と希望をつづったこの作品。人気映画「ドライブ・マイ・カー」(村上春樹原作)の公式サイトのイントロには、そんな解説が書かれている。重いテーマの下地になっている要素の一つが、妻の浮気だ。さて、妻の異変に気づいたら……。

  ◇  ◇  ◇

 日刊ゲンダイ記者がJR品川駅近くの映画館「T・ジョイPRINCE品川」に足を運ぶと、夜8時開演のレイトショーとあって、客入りは4割ほど。20代から50代くらいで、男女は半々。見る前は、3時間に及ぶ長編に、正直しんどそうなイメージだったが、いざ見始めると、あっという間だった。映画に詳しいイラストレーターのクロキタダユキ氏が言う。

「濱口竜介監督の演出は、『パリ、テキサス』『ベルリン・天使の詩』などでおなじみのビム・ベンダース監督の演出法に似ています。短いせりふ回しで、淡々と奇をてらうことなく、自然体に。そこにドライブシーンをうまく挟んでいるので、映像で詩をつづっているような仕上がりになっていて、抵抗なくスクリーンに集中できます。カンヌ国際映画祭で日本初の脚本賞を受賞したのも納得です。3時間飽きることなくひきつけられました」

 昨年は全米の主要な映画批評家協会賞で作品賞を受賞。今年は、ゴールデングローブ賞で非英語映画賞に。来月8日のアカデミー賞でも国際長編映画賞部門の対象作になっている。

 そんな世界が注目する長編映画は、妻の浮気がラストに強く響く。冒頭、主人公の男性・家福は帰宅してリビングに入ろうとすると、妻が若い男にまたがるセックスシーンを目撃。そこで取った行動は意外なもので、妻や男に激高することなく、2人に気づかれないようにそっと玄関のドアを閉めて街に出ていった。

■相手との子供を認知する人も

 なぜキレない? ツッコミたくなるが、そうでもないようだ。セックスに関する相談窓口「せい相談所」代表のキム・ミョンガン氏が言う。

「主人公のような男性は珍しくありません。彼らに共通するのは、女性経験の少なさです。妻とのつながりを断たれることをとにかく恐れる。それで、妻の浮気に気づいても愛情が勝り、妻との関係継続を最重要視するので、浮気は黙認です。相談者の中には、妻と浮気相手との間にできた子供を認知し、自分の子供として育てている人もいる。そんな男性が一人や二人ではないのです」

 浮気女は、捨てればいい。そう思えれば楽だろう。それができず苦しむ男性は少なくないのだ。クロキ氏が続ける。

「映画『運命の女』でリチャード・ギア演じる男性は、嫌みな同僚に妻の浮気を知らされた結果、その浮気男の家で男を殺害します。凶器となった置物は、実は妻からのプレゼント。それを夫婦の自宅に持ち帰り、妻が見つけたことで、妻はすべてを察知。その置物を開くと、リチャードからの愛にあふれたメッセージが書かれていて、涙しながら夫の愛の深さに気づくのです」

 SNSやマッチングアプリ、相席居酒屋などの登場で、男女の出会いは求めれば、それなりのリターンを得られる。その分、浮気のハードルは下がっているかもしれない。男女問題研究家の山崎世美子氏は男女の違いに着目した上でこう言う。

■反省する男、キレる女

「夫の浮気に気づいた女性は、概してキレて騒ぎ立てます。しかし、逆のケースだと、必ずしもそうではありません。映画の主人公のようなタイプで夫婦関係の継続を望む男性だと、反省することがあります。忙しさにかまけて妻をかまってやれなかった、オレも風俗に行ったり浮気したりしたこともあった……といった具合で、妻が浮気に走った一端は自分にもあると考えるのです。それで妻の浮気を黙認し、許す。そういう男性は女性より多い印象で、浮気後も妻とは苦しみながらもうまく生活しています」

許さない人は証拠を固めて

「運命の女」に描かれたリチャード・ギアも多忙で、妻が男の誘いを受けたのもその寂しさゆえだった。そんなケースで男性が自分の落ち度に気づくと、妻が浮気しようとも、その怒りは少なくとも妻に向かわないということだろう。

 山崎氏は、妻の浮気を許さずに離婚を考える男性も、騒ぎ立てることはないという。一体、どういうことか。

「妻の浮気を許さない男性は、ガチガチに証拠を固めた上で相手に離婚を突きつけます。それまで一切、騒ぎ立てません。確実に絶縁するためです。男性の場合、相手を許すか許さないか、イエスかノーかがハッキリしているのが特徴。その点、女性は中間があって、相手を許さず嫌いなのに関係を続けるのは、相手に苦しみを与えるのが目的。妻の浮気を許して関係を続ける男性とは、この点が大きく違います」(山崎氏)

 妻の浮気を許す男性は、その後も妻との肉体関係を持とうとする。映画でもそうだが、逆に夫の浮気や不倫を許さずに夫婦を続ける女性は夫からの誘いを拒むという。

話し合いを要求されたら?

 映画のワンシーン、出社しようとした家福は妻に「話があるから、早く帰ってきてね」と送り出される。こんな状況は、どの家庭にもありうるだろうが、サレ夫にしてみると、いろいろなことが頭を巡るだろう。

「そんな男性が懸念するのが、妻が浮気相手を選んだのではないか、そのための話し合いなのではないかという邪推です。私のところにもそんな男性が来られるので、私から質問することがあります。もしその通りだとしたら、あなたはどうしたいかと。離婚するのか、ふざけるなと罵倒するのか、あるいは精神的な苦痛に対する謝罪を要求するか。でも、こういう男性は、妻とつながっていたい一心なので、そういう質問の落としどころを想定しておらず、答えに詰まりがち。要は、一番の苦痛である離婚から逃れたいので、その可能性のありそうな話し合いからは逃れたいと考えるのです」(キム氏)

 仕事の残業を増やしたり、あてもなく散歩したり。コロナ禍では難しいが、飲み歩いて時間を潰すこともあるだろう。山崎氏の相談者の中には、「妻が寝るまで、自分の車で寝ていた人もいた」そうだ。「浮気サレ夫が、妻を好きである以上、回避行動は仕方ない」(キム氏)ということなのか。

 クロキ氏が言う。

「女性を描いた名作として知られる『オール・アバウト・マイ・マザー』で“娼婦”として生きる男性は、傷心の修道女に『孤独を避けるためなら女は何でもする』とつぶやいています。『運命の女』で不倫に走った妻もこのタイプです。その一方、第2次世界大戦下の英国の生活を描いた『戦場の小さな天使たち』に登場する高齢男性は、女遊びを繰り返した経験から、『オンナを理解しようとしたら、破滅する』と少年を諭します。これらの名作が教えてくれるのは、好きになった女性は寂しがらせることなく、難しいことも考えずに、丸ごと受け入れる。そういうことではないでしょうか」

 男にとって大切なのは度胸より度量。「そんな大げさな」という人ほどそこを磨いた方がいいかもしれない。

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