認知症の徘徊を防ぐ言葉がけのコツ「怒らず、叱らず、否定せず」
認知症は、初期から中期を経て、末期にいたります。この間、大体10年くらいです。初期2~3年、中期3~5年、末期3~5年くらいが目安ですが、個人差がとても大きくあくまでも目安にとどめておいてください。
米レーガン元大統領は、退任5年後の1994年、ナンシー夫人との連名で国民に向けた書簡を公表。認知症の一つアルツハイマー病であることを告白しました。
当時の症状を振り返ると、大統領在任中にはすでにアルツハイマー病を発症。物忘れなどの記憶障害は始まっていたと思われます。何が言いたいかというと、アルツハイマー病は病状に幅があり、初期であればそれまでの仕事ができる可能性が高いということです。
中期に近づくと、いま何時か、自分がどこにいるかといったことが分からなくなる「見当識障害」が現れることもあります。それで生じる問題行動の一つが徘徊です。介護する人にとっては、とても悩ましい。
慣れないうちは、その行動が腹立たしく、きつく叱りたくなるかもしれません。しかし、親の介護は子供のしつけとは違って病気です。強く叱ったり、声を荒らげたりするのはよくありません。
初期から中期くらいは認知症の人には「何となくおかしい」という思いがある半面、それを認めたくないという矛盾した感情もあります。そのためかは分かりませんが、医師の問診や周りの言葉をはぐらかしたり、取り繕ったりするのです。
それで叱られると、プライドが傷つくから逆ギレしたり、激高したり。そのつらい経験がストレスとなって、怒られるかもしれない状況にぶつかると、ここから逃げたいという気持ちが芽生え、徘徊につながることがあるのです。
その点を踏まえると、徘徊を起こしにくくする接し方が見えてくるでしょう。怒らず、叱らず、否定せず、相手のプライドを傷つけず、笑顔で接して安心させること。介護士など介護のプロが優しいのは、それが毎日の介護を楽にすると知っているからにほかなりません。
認知症の人が何かをうまくできたときは、すぐに褒めてあげてください。そうすれば、その人の不安感がなくなり、意欲が向上します。喜んだり、自信を持ったりすれば、認知症の進行を抑えることになるのです。
徘徊をはじめとする問題行動に悩んだときほど相手に優しく接するように。これを肝に銘じることをお勧めします。
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