国が5年で1兆円を投じる「リスキリング」って一体なに? 大企業、中小、フリーランスではどう違う
1月の参院本会議でリスキリングについて問われた岸田首相が「育休中でも後押しする」と発言し、「育児中にそんな時間などない」などと批判、炎上した。そもそも「リスキリングってなんなの?」という読者も多いはず。一体、なにが起きているのか。
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岸田首相は昨年10月に開かれた臨時国会の所信表明演説で「人への投資で5年で1兆円を投じる」と宣言。2022年度の第2次補正予算では、リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業として753億円もの予算が計上。個人が民間の専門家に相談し、リスキリングから転職までを一気通貫で支援する仕組みを整備するという。
リスキリング(学び直し)は国策として着々と進むが、背景にはAIなどデジタル化により仕事が消えるのに、高度IT人材が不足している危機感がある。
■「リスキル革命」も
リスキリング(Reskilling)とは、今後の業務に必要な新しいスキル(技術)や知識、技術を保有することを意味する。スキルを改めるという意味で「学び直し」と訳されることが多い。自分の技術を向上させるスキルアップや、大学など専門機関で学び直す「リカレント(反復)教育」とは異なる。
ポイントは主体が企業であり、あらゆるものがデジタル化(DX)される中、社員も実践的なデジタル人材に更新すること。日本では昨年末から突然一般化した印象だが、世界ではもはや常識。世界経済フォーラム(ダボス会議)では18年から3年連続で「リスキル革命」というセッションが組まれている。
米国では通信大手のAT&Tは13年から10億ドルを投じて10万人の社員をリスキリング。米アマゾンは19年からの6年間で12億ドル以上を投資、約30万人の従業員にリスキルの機会を無料提供すると発表している。
■学習サイトを社内に設置する大企業
日本でも日本経団連が20年11月の新成長戦略で言及しており、一部の大手企業では先駆的に独自のリスキリングを実施している。
日立製作所では昨年10月、学習体験プラットフォームを導入。1万6000の講座や英語を含む10言語の学習プログラムを受講できるようにした。富士通も学習のための社内ポータルサイト・FLXを使い、研修や学びの機会を提供。1万近いコースが受講可能だ。
しかし、日本の99%は中小零細企業。名古屋の100年企業、西川コミュニケーションズが電話帳の印刷会社からIT企業へと劇的にリスキリングし得たのは稀有な事例。多くの中小企業は社内外のDX化にリソースを割けず、大手企業との差は開くばかり。そこで政府も“職業訓練”に乗り出したのだ。