未来の世代と地球の声を「聞く力」が発揮されなければ、日本はこのまま没落する
斎藤幸平(経済思想家・東大准教授)
岸田政権は歴史の流れを読み違えている。現在、世界が直面しているのは未曽有の「人新世」の危機だが、その深刻さが分かっていない。
「人新世」とは、人類の経済活動が地球全体の姿を根本から変えてしまう時代を表す地質学の用語だ。行き過ぎたグローバル資本主義が文明社会の土台を瓦解させる時代と言ってもいい。
これからの時代、コロナや気候変動のような自然の脅威と、戦争やインフレのような社会の混乱が弱者を容赦なく襲う。終わりのない慢性的緊急事態を前に、ごまかし程度の「成長と分配」では足りない。原因である強欲資本主義を抜本から変革すべきなのだ。
これが、拙著「人新世の『資本論』」(集英社新書)で示した時代の見取り図である。当初の岸田政権は、少なくとも新自由主義からの決別を謳ったかのように見えた。しかし、「新しい資本主義実現会議」での議論が進むにつれ、自社持ち株制限や金融所得課税強化などの再分配政策への期待はしぼんでいった。
最終的に「分配」という文字は消え、目先の数字を優先する「成長教」が復権したのだ。富裕層や大企業に課税する代わりに、つみたてNISAを拡大・恒久化することで、経済成長の恩恵を受けろというわけだ。これではトリクルダウンの発想と変わらないし、そもそも投資する余裕のない国民は置き去りになる。
さらに、政権の成長戦略にも問題がある。エネルギー不足を理由に持ち上がっているのは、原発の稼働期間の延長や現実味のない新設。また、日本の技術を使って、高性能の石炭火力発電を開発するのだという。
ところが、世界の流れは再エネだ。気候変動が深刻化するなかで、G7で日本だけが、いまだに国内で石炭火力発電所を建設し、国外の石炭火力に資金提供している。気候変動対策に消極的な国に贈られる「化石賞」を日本は3回連続で受賞するなど、国際的な批判の的だ。原発と石炭火力、これのどこが、「新しい」資本主義なのか。