なぜ校閲の仕事を選んだのですか? 毎日新聞校閲センターに日刊ゲンダイが直撃(前編)

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【校閲座談会】日刊ゲンダイ×毎日新聞 校閲記者から見る未来(前編)

 発行前の紙面に不備はないか、言葉の使い方やデータに誤りがないか。新聞社や出版社など活字業界において、なくてはならない工程のひとつに校閲がある。もちろん夕刊紙「日刊ゲンダイ」も校閲記者が日々目を光らせながら、記者が書いた原稿やゲラ刷りをチェックしている。

 今回無謀(?)にも、校閲系のツイッターアカウントで10万以上と最大級のフォロワーがいる毎日新聞の校閲センターに、日刊ゲンダイ入社4年目の校閲記者が直撃取材を申し込んだ。

 日々どんな思いで紙面を校閲しているのか、校閲の側面から見る日刊ゲンダイと一般紙の違い、これからの校閲の未来についてなどなど、胸をお借りし語り合おうと、ダメ元でツイッターアカウントにダイレクトメッセージを送ったところ、快く引き受けていただいた。そんなワケで、異色の校閲座談会が実現したのであった。

  ◇  ◇  ◇

日刊ゲンダイ・勝俣翔多 私は新卒で金融機関に勤めていたこともあり、元々細かいことやきっちり整えることが好きでした。そこから紆余曲折あって日刊ゲンダイに転職し、そこで初めて仕事として“校閲”を始めましたが、毎日新聞の校閲センターで働く皆さんはどういった経緯で校閲の仕事を始めたのですか。

毎日新聞・本間浩之さん 実は私も当初金融機関に勤めていました。そこからテレビ局のテロップなどを作る会社の校閲部員となりました。次第に、より専門的に校閲を突き詰めたいと思うようになり、文字情報がメインの新聞校閲に興味が湧いて毎日新聞に転職しました。今年で入社6年目になります。

勝俣 思いがけず本間さんも同じく金融機関出身だったんですね。

本間さん そうですね。転職で入ることで新しい目で、いろいろな人の目で校閲できるのは、決してマイナスではないと思います。

新聞の校閲は書籍に比べてあらっぽい?

勝俣 私は現職で初めて校閲という仕事に就いたのですが、久野さんも同じですか。

毎日新聞・久野映さん そうですね。私は新卒で毎日新聞に入社して4年目です。大学生時代にスポーツ新聞のサークルで記事を書いていたのですが、そこで大きな間違いを出してしまって、その経験から校閲の重要性に気づき、校閲を希望するようになりました。

毎日新聞・平山泉さん 私はもう30年校閲に携わっていますが、昔から言葉には興味がありましたし読むのが好きでした。ただゼロから何かを創作するというのは苦手で、たまたま学生時代に通信校正講座を受け、そこで他人が書いたもので仕事ができることに気がついたんです。それで新聞社と出版社の校閲部門を受けました。知り合いの紹介で出版社出身の校正者にお話を伺う機会があり、新聞の校閲はあらっぽいと言われたこともありました。

勝俣 あらっぽいですか。

平山さん 出版社の書籍は書き方や言い回し一つで書き手の意図が変わってくるし、校正作業が果てしないそうなんです。一方、新聞は各社のルールにのっとって表記が決まっているし、校閲にかけられる時間も短いし、書籍と比べてあらっぽい作業になってしまうんですよね。それでも新聞の校閲を選んだのは、言葉について主体的に悩んだりすることができるんじゃないかと考えたからです。

勝俣 なるほど。確かに書籍と新聞では、同じ校閲でもまた違ってきますよね。そもそも毎日新聞さんと日刊ゲンダイでも校閲に対する姿勢は違っていますよね。毎日新聞さんはもちろん新聞協会に加盟していて、一方、日刊ゲンダイは“デイリーマガジン”をうたうだけあって雑誌協会に入っていますし。日刊ゲンダイの紙面で言葉の使い方で間違いなどはあるものの、書き手の意向や、その人らしさ、時代の流れに即した言葉として許容範囲を広くしているという側面もあるんです。

平山さん 毎日新聞の場合、新しい言葉に対しては、その都度、注釈を入れて対応していますよ。また、その言葉の使い方が合っているか否かは社内での取り決めの他に、多くの辞書を参照して判断の基準にすることもあります。

校閲記者は毎日文字を追っているだけじゃない

勝俣 日刊ゲンダイの場合、例えば多くの新聞社では修正される、隠してもいない事柄に「発覚」を使ったり、人以外に動物にも「死亡」という表現を使ったりしているのは、やはりその表現の方がインパクトがあるからでしょうね。タブロイド紙ですし、見出しにその文字が躍っていた方が目を引きやすいんですよね。そういうところは毎日新聞さんのような一般紙・全国紙とは違うところですよね。話がそれましたが、平山さんより4年後輩という大木さんはこの仕事を始めるきっかけは何だったのですか。

毎日新聞・大木達也さん 私は、母親がフリーランスで校閲の仕事をしていて、その姿を見ていたことですね。ただ、編集の仕事にも興味があって、紙面編集を3年間やらせてもらいました。その経験を生かして、現在は「毎日ことば」をはじめとするウェブメディアをつくって、校閲センター独自で言葉に関する情報を発信しています。

勝俣 「毎日ことば」は私もよく見ていますし、他の校閲部員も参考にしていると言っていました。実は日刊ゲンダイの校閲部もツイッターをやっているのですが、毎日新聞さんの場合は、とても手が込んでいて奥深い内容を発信していますよね。

大木さん 単に紙面上の表記の取り決めだからといって一方的に決めつけるのではなくて、言葉の表記がそうなった経緯や背景を具体的に発信することで、なるほどな、と思ってもらえればと。ウェブの運営はそれを心掛けています。

平山さん 特にウェブでは、読者の反応を直で感じられますよね。紙面の校閲ではどうしても時間に追われてしまい、じっくり考えることがなかなかできませんが、発信するために改めてその表記について立ち止まって考えられます。

勝俣 日刊ゲンダイの校閲ツイッターは、私一人で運営しているのでネタに困ることが多々あるんです。その場合は、中の人(私)自身のプライベートな内容を発信してしまいがちなんです(笑)。何かもっとフォロワーを増やしたり、ツイートをバズらせたりするには何かアドバイスはありますか。

大木さん あまり狙ってバズるものではないと思いますし、逆に私たちにとっては当たり前のことで、あまり面白くはないんじゃないかと思うことを呟いてもバズることがあるので難しいですよね。何が正解かわからないからこそ、発信する側も楽しみながら、好きなことをやればいいと思います。特にゲンダイさんのツイッターはプライベートなことを呟いていて、中の人がそうやって表に出てやっているのは他の校閲系アカウントにはないですし、それを新鮮に思いながら見ていますよ。校閲記者は毎日、新聞を読んで文字を追っているだけの生活を送っているわけではないのですから。(後編につづく)

(取材・構成=勝俣翔多/日刊ゲンダイ)

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