なぜ原発活用の方針転換を急いだか ウクライナ危機や電力高騰の“カミカゼ”を利用しているだけ
松久保肇(原子力資料情報室 事務局長)
昨年8月24日、岸田首相が原発運転期間の延長と原発建設を含む原発活用方針の検討を指示してから、わずか4カ月。12月22日の政府のGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議は原発活用方針を含む基本方針を承認、年末年始を挟んで30日間のパブリックコメント(意見公募)が実施されたものの、事実上、方針は固められた。
2012年、東京電力福島第1原発事故の反省を受けて、与野党合意の下、原発の運転期間は原則40年、例外的に20年延長を可能にすることとした。また、政府はこれまで「原発の新増設は想定していない」と繰り返し答弁してきた。つまり緩やかな脱原発は既定路線だった。
■方針転換は根拠に欠ける
事故から約12年、原子力緊急事態宣言はいまだ解除されず、世論も6割超が脱原発を求める中で、岸田首相は、原発政策を百八十度方針転換しようとしている。
方針転換の理由として、政府は大きく、①電力需給逼迫対策②エネルギー安全保障確保③脱炭素の推進役と3つの理由を挙げている。だが、いずれも根拠に欠ける。
第1に未稼働原発は地元理解や工事未了、安全性が未確認など、再稼働できない理由がある。さらに、地震などで原発が停止する事例は複数ある。よって電力需給逼迫には、いつ再稼働できるかわからない原発よりも、節電や建物の省エネ化などの需要抑制が効果的だ。
第2に原発の燃料であるウラン資源はすべて輸入だ。さらに、ウランは濃縮工程を経ないと原発の燃料として使えないが、このウラン濃縮ではロシアが世界シェアの約50%を占めている。
第3に近年、原発の建設期間は10年、中には15年以上を要しているものまである。一方、同じ脱炭素電源でも太陽光は1年程度、風力でも数年程度で建つ。発電所が新設されるまでは既存の石炭火力などのCO2排出の多い電源が生き残ることになるが、建設期間の短い自然エネルギーのほうがCO2排出量を早く多く削減できる。