武器を買うより食料の自給を このままでは戦うどころか「兵糧攻め」で餓死させられる
鈴木宣弘(東大大学院教授)
戦後、米国の余剰農産物の処分場と位置付けられ、日本の食料自給率はどんどん低下した。カロリーベース38%という自給率だが、野菜の種の自給率が10%しかないことや化学肥料の自給率がほぼゼロであることを考慮すると、実質は10%あるかないかくらいとの推定もある。
我が国が国民の命を守るのにどれほど脆弱な国であるかは、海外からの物流が停止したら、世界で最も餓死者が出るのが日本との米国の大学の試算にも如実に示されている。今こそ、国内農業生産を増強しないといけないのに、逆に、コメも牛乳も余っている。だから、コメつくるな、牛乳搾るな、牛殺せ、牛乳捨てろ、と言っている。
牛を処分してしまったら、また足りないとなっても、牛乳生産回復には3年近くかかるから絶対に間に合わない。海外からの輸入が滞りつつあるときに、逆に自ら国内生産力をそいでしまう「セルフ兵糧攻め」をやってしまっている。
牛を殺したら5万円支給とか、愚かな金の使い方でなく、他国のように、農家にしっかり生産してもらい、政府が穀物や乳製品の在庫を買い取り、国内外の援助に使うことで需要創出する前向きの政策に財政出動すれば、農家も消費者も助かるのに、日本だけはやらない。援助政策は米国市場を奪うとして逆鱗に触れる可能性を恐れている。
すでに、国内農業は肥料、飼料、燃料などの生産コスト暴騰にもかかわらず農産物の販売価格が上がらず、この半年くらいの間に廃業が激増しかねない。直近の酪農家アンケートでは98%が赤字と答えており、子供の成長に不可欠な牛乳を供給する産業が丸ごと赤字というのは社会的にも許容できない危機である。
さらに、在庫が過剰なのだから、コメつくるな、牛乳搾るな、と言いながら、77万トンものコメと13.7万トンもの乳製品の莫大な輸入は「最低輸入義務」と言って続けている。
国際協定には、そんな約束はなく、どの国もそんな輸入はしていないのに、日本は米国の怒りに触れるのを恐れて、北海道だけで14万トンの生乳の減産をしながら、13.7万トンの輸入をしている始末だ。米国から無理やり買っているコメは国産米の1.5倍に値上がりしているのに、そんな高いコメを輸入して国産を減産させている。