「防衛政策の歴史的大転換」合意の瞬間 燃える暖炉の前で紅潮する岸田首相に浮かぶ不安
下重暁子(作家)
あかあかと燃える暖炉の火をバックに、両首脳が相対している。いうまでもなく、アメリカのバイデン大統領と日本の岸田首相だ。
このシーンを忘れないでおこうと思う。バイデン大統領は、おだやかで満足げな表情だ。岸田首相は、自らの発言がもたらした効果を考えてか、いささか紅潮した面持ちだ。
「防衛政策の歴史的大転換」が両者の間で合意した瞬間なのだろう。
歴史的大転換というからには、政権を握る自民党内はもちろん、国民の代表たる国会議員が、国会で意見を十分に交わし、練りに練った上で、もたらされたものであるべきなのは言うまでもない。
その前に国民全体に、なぜ「歴史的大転換」に至ったか、その理由と、それに対する個々の意見に可能な限り耳を傾けるのが前提のはずである。
それが昨年の終わりごろから、もやもやと持ち上がり、岸田政権の中では当然の結果のように方向づけがされ、そして閣議決定という都合のいいものがあたかも日本全体の意見であるかのように、あかあかと燃える暖炉の前でバイデン大統領との間で意見の一致をみた。
そこに少なくとも、私の意見は入っていない。私個人はともかく、国民が、今後の日本を決定づける重要方針に誰も意見を言う余地がなかった。