戦争を防ぐには「安心供与」一見“かったるく”見える外交こそ不可欠

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猿田佐世(新外交イニシアティブ(ND)代表)

 筋書きが見える陳腐なドラマのようだった。

 日米安全保障協議委員会(2プラス2)と日米首脳会談が終了した。年末に閣議決定された安保3文書改定で、日本の敵基地攻撃能力の保有や年間防衛予算を5年後には従来の2倍とすることが決定されたが、これらに対し米国から強い歓迎の声が上がった。

 当然である。

 力を落とす米国は、バイデン大統領の就任時から安保政策は同盟国との協力が柱であり、米国家安全保障戦略(昨年10月発表)においても、統合抑止、すなわち、同盟国にも軍事力の強化を促し、米国の抑止に組み込む政策を打ち出している。

 今回の日本の3文書改定は、日本の軍事力を増強し、自衛隊と米軍の一体化を急速に推し進めるものである。同盟国の力を借りねば、中国に覇権国の地位を奪われかねない米国の切なる要望に対し、日本はストレートに応えたのである。米国が大歓迎しないはずはない。

 忘れてはならないのは、日本1カ国では中国とも北朝鮮とも戦争になる理由も可能性もないということである。日本が戦争に巻き込まれるとすれば、唯一、米国の戦略の一部を担うが故に台湾有事に巻き込まれた場合のみである。しかし、台湾有事となれば、日本国民にも甚大な被害が生じる。米軍は在日米軍基地から出撃し、反撃を受ければ民間人にも多くの死傷者が出るだろう。また、その前の時点においてすら、事態が緊迫し、対中経済制裁となった際の市民一人一人の生活が被る被害についても想像を絶する。

 米国と日本では地政学的位置も中国との関係も大きく異なることを理解しなければならない。日本ができるだけの努力をする姿勢を見せることで米軍に日本防衛を果たしてもらうことも3文書改定の意図するところとされるが、米国の世論調査において台湾防衛のための派兵を支持する人は40%と半分にも満たない。米軍の補完として自衛隊が台湾に派兵されながら、米軍は介入せず、という可能性すらありうるのである。

 国の安保政策の最大の目的は、戦禍から国民を守ること、すなわち、戦争回避でなければならない。外交は一見「かったるい」ように見えるだろう。

 しかし、日本の軍拡は相手のさらなる軍拡を招く。戦争を防ぐためには、相手が「戦争してでも守るべき利益」を脅かさないことによって戦争の動機をなくす「安心供与」が不可欠であり、そのためには外交が欠かせない。

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