伝説の月刊誌『話の特集』を創った矢崎泰久という破天荒
矢崎泰久(2022年12月30日没 享年89)
最初の出会いは1976年の春だった。わが師の久野収が一橋出版から高校の『倫理・社会』の教科書の執筆を依頼され、弟子たちの他に中山千夏と矢崎を誘ったのである。
久野はその時「失礼だが」と前置きして、矢崎にこう言ったという。
「キミや中山クンのようにやネ、学歴はないけれどもねぇ、かえって学問に頼らず、学問をふりかざさず、学問にふりまわされない姿勢を持っている無学歴派が、現実に立脚した視点からいろいろな問題に取り組み、モノを言うていかなアカンのでねえ。学者が偉そうに学問のなかで何かいうても、実際どれほどの役に立つか、第一、まあ、学者のいうことや文章は、硬くてオモシロクないからねえ、そんなもん、近頃の若い人はほとんど本気で読まないよ」
結局、この教科書は文部省(現文科省)の検定を通らなかった。それで解説をつけて『検定不合格 倫理社会』と題して三一書房から刊行される。その中で矢崎は久野の関西弁を生かしながら、さすがの一文をまとめている。
そんな縁もあって矢崎は、ペンクラブの言論表現委員会で私が猪瀬直樹にからまれた時も、割って入ってかばってくれた。