「群衆」は強い力に隷属する だから常に「これでいいのか」と自らに問い続ける
NHKの「100分de名著」でギュスターブ・ル・ボンの「群衆心理」(1895年)を取り上げているのを見た。司会は伊集院光さん、解説はライターの武田砂鉄さん。
ル・ボンは19世紀後半から20世紀にかけて活躍した社会心理学の第一人者。市民一人一人は善良な“いい人”なのに、「群衆」と化した時に個性が消え失せ、同じ方向に向くのが恐ろしいと解く。群衆に交じるとまるで催眠術にかかったように、周りに流されるようになる。そのため理性でいけないとわかっていることでもやすやすと実行してしまう。「みんなといれば怖くない」というわけだ。
群衆はまた弱い権力には常に反抗するが、強い権力には屈服する。大正時代の社会運動家・大杉栄はそれを「奴隷根性」と呼んだと武田さんは言う。奴隷は主人の前にひれ伏すことを最初は屈辱に感じるが、やがてそれが当たり前になり、愉快にすら感じられるようになる、と。
大杉と、その妻でやはり社会運動家で文筆家の伊藤野枝は、近代日本に突如現れた“異物”として特異な存在だ。2人が交わした恋文の言葉をもとに、私はいま「愛の手紙」という合唱曲を書いているが、彼らは時の権力にとっての“不穏分子”として、陸軍の甘粕正彦大尉の指示により、関東大震災直後のどさくさの中で殺された。