日本人が持っていたはずの「正直さ」の美徳はもう戻らないのか
芸術家に求められるのはルールを破ることだ。いつの時代もモラルを疑い、社会の常識をひっくり返してみることで、新しい芸術は生まれてきた。
政治家に求められるのも、凝り固まった旧弊をひっくり返して現状を打破する力だろう。しかし、もっとも重要な資質は嘘をつかないことだ。大言壮語は大いに良し。しかし、国民を欺くことは、決してやってはいけないのだ。
以前に当コラムで、安倍元総理の最大の罪は「嘘が通る社会をつくったこと」だと私が書いたゆえんはそこにある。
安倍政権発足以来、本来なら国民に範を示すべきリーダーや官僚たちが公の場で平気で嘘をつき、国にまつわる数字や公文書を改ざんするようにさえなってしまった。そのために日本社会のモラルは崩壊したのだ。
私は同じコラムで「安倍元総理の人柄と業績は分けて評価すべきだ」と述べた。著名人が亡くなって世の中が“追悼モード”になると、日本人はすぐに故人の人柄と業績とをいっしょくたにしてしまう、と。
たとえその人が罪を犯していたとしても、日本人は「もう亡くなったのだから」と許してしまいがちだが、その罪が消えてなくなるわけではない。人道に対する罪などは、犯した者が生涯にわたり背負っていくのが世界の倫理観だ。日本人の考え方は通用しない。