「美しい音楽は嫌われる」強烈なメッセージがなければ芸術ではない
西洋人はメッセージと新しい試みのない音楽は評価しない。美しいだけの音楽は「甘いお菓子のよう」とさげすまれる。ラフマニノフやチャイコフスキーらロシアの作曲家の作品も、欧州では低評価。私たちの世代は「ハリウッド音楽のごとし」とも評し、今でも耳にする。
日本の流行歌はほとんど恋の歌で、女性の失恋が多い。逆にラテンのアルゼンチン・タンゴやイタリアのカンツォーネに多いのは男性の失恋だ。
西洋の流行歌は違う。メッセージがあるのだ。例えばジョン・レノンの「イマジン」。「国もなく 殺すことも死も必要ない 所有も強欲も飢餓もいらない 想像してごらん 皆が平和に生きる姿を」と歌いベトナム戦争をやめさせた。昨夏の東京五輪と今春の北京五輪の開会式でも「イマジン」が流れたが、過激な歌詞を恐れたのか、NHKは日本語字幕を出さなかった。
原点はベートーベンだ。彼は2人の哲学者に影響された。「時代精神の反映なき表現は無意味」(ヘーゲル)であり、「音楽は感覚を刺激するのみで消える。諸芸術と比べて価値が低い」(カント)と。そして初めて音楽を「芸術」と位置付けたのだ。