芸術と脳の関係を探究する作家が奈良県で独特なアートイベントを開くまで
岡本奈香子さん(48歳)本業=美術作家、京都橘大学客員研究員/副業=まちづくり団体運営
芸術と科学の力で地域活性を担う奈良県在住の岡本奈香子さん。本業では現代美術と認知心理学による分野横断的研究をベースにした作品を作り続けている。まずは本業の作家活動のことから聞いた。
「約25年前の大学生の時、突然、5日以上に及ぶ不眠状態に陥りました。一睡もしていないのに疲れや眠気を感じず、日を追うごとに緊張が高まり、不眠5日目にはとうとう錯乱状態に陥りました。しかし、その直後、意識が冴え渡り、光り輝く妄想の世界が広がって湧き上がる創作意欲に満ちあふれたんです。この体験はしばらく誰にも公言せず、美術から離れ、静かに生きる時期を過ごしました。しかし、アウトサイダーアートや精神疾患や脳の障害者たちの作品を見たとき、圧倒的な独創性と説明のつかない親近感が迫ってきたんです」
当時の自分が描いた作品と、障害のある方の作品を比較したところ、類似点を次々に発見。その構造をより知りたいと考え、2009年ごろから認知神経科学研究を開始。英国・ウィンブルドン・カレッジ・オブ・アート大学院(美術)の修士、京都市立芸術大学大学院の博士後期課程(メディア・アート領域)などの学位を修めた。
「当時の自分の不眠状態とは何だったのか。そこに客観的なメカニズムは存在するのだろうか。そして、これらの謎は『創造性の根源』と関係あるのではないかという問題意識につながりました。そこから、芸術と脳に関するさまざまな研究と分野横断的な美術表現を追求するようになったのです」