国の威信より重いのは国民の命…戦争で奪われた領土は返ってこない
「最後まで戦い抜く」と宣言して国民を総動員し、先の見えない無謀な戦争を続けるリーダー。その姿は、とりわけ日本人にとっては戦前の東条英機を思わせる。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、まさにそうではないか? 私たちもかつて、“鬼畜米英”への徹底抗戦を掲げる東条たちによって、強制的に破滅への道を歩まされた。それは世界共通の記憶でもあるはずだ。
戦時体制となれば、必ずしも国民全員が戦争を支持しているはずもないのに、個人の意思など吹き飛んでしまう。ゼレンスキー大統領はことあるごとに「我々は最後まで戦い抜く」という趣旨の発言をしている。ロシアの侵攻の唐突さと彼のプレゼンのうまさによって、国際世論はウクライナの決断を是としている。
それでいいのか?
1993年、故・山本寛斎さんのロシアでのイベントに音楽担当で参加したとき、赤の広場で50人ほどの老若男女にインタビューしたことがある。
「北方領土を日本に返還すべきか?」との問いに全員が「いいえ」と答えた。理由は「血を流して手に入れた領土は、絶対に渡せない」だった。実際に当時のソ連が血を流して戦ったかはともかく、これに限らず、歴史を振り返ると戦争によって奪われた領土はまず返還されることはない。