佐川宣寿氏との裁判に「新証拠」提出 動画が示す激変、メールが示す裏切り
公文書の改ざんは、誠実な公務員の心をいかに蝕んだのか? それが一目でわかる映像が、裁判の証拠として提出された。改ざんを苦に命を絶った財務省近畿財務局の赤木俊夫さんの妻、雅子さんが、改ざんを指示した元財務省理財局長、佐川宣寿氏を相手に起こしている裁判だ。
こちらの動画をご覧いただきたい。冒頭の37秒ほどは、12年ほど前、2010年頃に赤木雅子さんが夫、俊夫さんを撮影した映像だ。俊夫さんは建築家の安藤忠雄氏が大好きで、安藤氏が設計した建物を見るため全国各地を回っていた。その一つ、広島県の尾道市立美術館を訪れた時の映像。俊夫さんは、安藤氏の建物に特徴的なコンクリートの打ちっぱなしの壁をピタピタと触って感触を確かめている。雅子さんが動画を撮りながら「安藤さん、これでコンクリートよろしいですか?」と声をかけると、俊夫さんは安藤氏になりきって「ちょっとー、しゃーないなあ」と答えている。安藤氏の口癖をまねたのだという。笑顔を浮かべながらおどける姿は、幸せな夫婦の旅の一コマそのものだ。
その後に続く動画は様子がまったく異なる。2018(平成30)年3月4日、自宅の寝室で撮影された。この頃、俊夫さんは自宅の騒音が原因で近隣の住民から訴えられるという思いに取りつかれていた。実際にはそんなことはなく、雅子さんが「そんなんで裁判ならんて。幻聴なんよ」となだめても聞きいれない。周囲がみんな自分に敵意を持っているという“妄想”に取りつかれ、しきりと“死ぬこと”を口にする。「そんなんで死ぬって、頭おかしゅうなっとるよ」と雅子さんが諭しても聞く耳を持たない。そんなやり取りが1分半ほど続いている。
俊夫さんは当時、森友学園との土地取引をめぐる公文書を改ざんさせられて1年余りがたっていた。改ざんをさせられた職場からの異動を希望したが聞き入れられず、絶望の中でうつ病と診断され休職に追い込まれた。職場から見放されたという思いを募らせ、症状は次第に悪化。幻覚や幻聴も現れるようになっていた。そのさなか、雅子さんはこの動画をなぜ撮影したのか?
「夫は主治医の前では精一杯普通のふりをしようとするんです。でも自宅ではおかしなことばかり言うんです。だから自宅での様子を動画で撮影しておいて、主治医の先生にお見せしようと思ったんです」