⑦単勝が幻の馬券に! 肩に落ちた鳩の糞は「ウンが落ちた」だった
【番外編】パリ・オートゥイユ(2)
オートゥイユは障害レース専門の競馬場である。障害レースの馬券を買うのは初めてだから、まさに未知のギャンブル。障害のコースは単純にコースを回るというより、場内をタスキに回ったりして複雑なルートを走る。どこを走っているかわからず、遠くをみると米粒のように一団が固まって動いている。順位をゴール前にあるターフビジョンが刻一刻と伝え、順位の変化、抜きつ抜かれつが瞬時に映し出されていた。
ランチ後は5Rから。馬券は手売りもあるが、場内にある発券機で。こちらは会話不要なので助かる。競馬場を選び、レース、賭け式の単勝(simple gagnant)、3連複(trio)などを選んでお金を入れ、金額を指定する。ただし、いつも? なのは、フランスではこの手のマシンも、例えばクレジットカードの暗証番号なども、力を入れてきちんと押さないと反応しないことだ。ピッピッピと軽くタッチすると反応しないし、押したつもりで確定キーを押すとエラーになる。イーチ、ニーイという感じでギュッと強く押す! 今どき? と思ってしまうが、これ、本当の話。
馬券は5頭くらいを3連複で。
5Rは14頭立て、3500メートル。11障害。成績表らしき数字、獲得賞金、新聞の予想をなんとなく参考にして5頭に1.5ユーロずつ15ユーロを2種類。6Rは9頭立て、4400メートル。18障害。5頭に3ユーロずつ30ユーロ。結果はドボン2連発!
ここで考えた。日本でも1頭すら何を買うか迷うのに、3着まで入る馬を当てるのは無謀ではないか。そこで何頭かの単勝を買う方法に軌道修正することに。
7Rは18頭立て、3900メートル。12障害。③と④が勝負で10ユーロずつ。⑦、⑪、⑬、⑱に5ユーロの計40ユーロ。
⑦の単勝は幻の馬券に…
結果は1着⑦、2着④。ゲットー! のはずだった。ところが、馬券を払戻機に入れても戻ってきてしまう。? 仕方なく、窓口に行って馬券を見せると、担当者が「delay」という。思い当たったのは③と④の単勝はスンナリ買えたが、あとの4点は発券機が例によってなぜか反応せず、モタモタしているうちに締め切り時間間際になり、どうにか買うことができた……。ところが、スタンドに戻ってみるとスタートのやり直しで、再スタートする寸前だった。障害レースは横一線のゲートからのスタートではなく、縦に並んで歩き、その状態からスタートになり、ズルズルと走り出す。そのやり直しの最中だったのだ。なのに、よく馬券が買えたものと思いながら、一抹の不安はあった。おそらくその時すでに「delay」だったのだろう。
それならスタート時間を過ぎた時点で売るなという、話だが。再度、窓口に行って掛け合ったが、ガンとして受け付けない。配当をみたら8ユーロで払い戻しは40ユーロ、トントンだが、買えたか買えなかったかは雲泥の差である。結局、⑦の単勝は幻の馬券になった。
前回、競馬場の入り口の木立で鳩の糞が肩に落ちてきて、「ウンがついた」と書いた。あれは「ウンが落ちた」だったか。最終8Rを前にオートゥイユを後にした。
オートゥイユに乾杯!
この日はひと足先に引き揚げたマダム悦子が食事をごちそうしてくれた。悦子さんは好物のムール貝を2キロ買い込み、食卓には玉ねぎを入れ、白ワインを加えたムール・マリニエールとムールのパスタが並んだ。旬を過ぎたこの時期、すごいごちそうだ。白ワインで乾杯し、目の前に食べ物があると食べずにはいられない愚食家はこの夜、一人で1.2キロのムールをペロリ。最後はご機嫌、オートゥイユに乾杯!
(文=峯田淳/日刊ゲンダイ)
■データ(収支)
マイナス97.2ユーロ(約1万3000円)