人はなぜ失敗するほど酒を飲む? テストで分かるアルコール依存症の疑い、減酒薬って何だ

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 一時のミスで人生が狂うこともある。そう思わせたのが、将来の事務次官候補と目された財務省キャリア官僚の暴行事件だ。逮捕当時、泥酔状態で警察の取り調べに「覚えていない」と話しているという。酒でチョンボしたことがある人も、他人事ではないだろう。

 ◇  ◇  ◇

 暴行容疑で警視庁玉川署に逮捕されたのは、財務省大臣官房総括審議官の小野平八郎容疑者(56)。20日午前0時半ごろに東急田園都市線の車内で、体がぶつかったことを注意された相手に逆ギレ。殴る蹴るの暴行を加え、桜新町駅で駅員に取り押さえられ、駆けつけた警察に現行犯逮捕された。

 この話だけだと、酒乱癖がありそうだが、省内での評判は良く、酒癖も悪くなく、暴力を振るうことが信じられないともっぱらだ。

 その日は、私的な会食だったことから、公用車を帰し、終電ギリギリの電車で帰宅したという。次官候補に名前が挙がるだけに、折り目正しく、マジメな性格と伝えられる。

 その評判通りの性格だとすると、余計に暴行したことが解せない。マジメなキャリア官僚ならなおさらで、懲戒処分を受けるような行為をすれば出世の目が断たれることは容易に想像がつくはずだ。

 小野容疑者の暴行の真意はともかく、酒を飲んでのミスや失敗は、酒を飲む人なら少なからずあるだろう。携帯電話やサイフなどをなくしたり、電車や路上で眠ってしまいスラれたり。足元がふらついてケガをしたり、失禁した人もいるとか。あるいは仲間とケンカに発展したり。それほどのことでなくても、帰宅経路や、2軒目はどこだったかが分からない、などと記憶を失うことだってあるだろう。

酔ったときの高揚感を目的にすると危ない

 なぜ人は、失敗するほど酒を飲むのか。精神科医で明陵クリニック院長の吉竹弘行氏に、対策を含めて話を聞いた。

「酒に酔った状態は酩酊といいます。その初期には気分が高揚し、声が大きくなって、よくしゃべるように。その半面、注意力が散漫になります。初期症状は心理的な変化で、さらに飲み続けていると、ろれつが回らなくなり、足元がふらつく。そして意識がもうろうとして、飲酒時のことを思い出せなくなるブラックアウトを起こすのです。ブラックアウトになるような状態だと、自分の行動や感情を制御できなくなりますが、酩酊状態の初期にみられる高揚感を得ることが飲酒の目的になると、失敗につながるような飲酒になりやすいのです」

 たとえば漫画「サザエさん」では、波平とマスオが酒に酔うシーンが度々描かれる。あるとき、酔っぱらった2人が夜道を歩いていると、あまりのうるささに警察に注意されたため、フネに禁酒を言い渡されるハメに。酔って騒ぐのは周りにとって迷惑だが、本人は“ご機嫌な状態”だろう。そんな状態が失敗につながりやすいとは、どういうことか。

「仲間と楽しくなって、それで帰るならあまり問題ありません。しかし、ストレスで不安やうつ状態、イライラなどを抱えた人が、その解消を飲酒に求めると、酩酊状態を得ることが自分にとっての“治療”になる。そのときはストレスが一時的に緩和されます。そこで飲酒が止まればいいのですが、気持ちがいいから概して飲み続ける。結果として、理性の制御を失った状態にまで酒量が増えやすく、失敗しやすいのです」

 不安やうつ状態、イライラなどがあると、なかなか寝つけず、不眠症にもなりやすい。それが酩酊状態によって、寝つきは良くなることも、ストレスを抱えた人が飲酒する目的になるという。

「うつ状態や不安障害などの人には、アルコールの酩酊状態による“報酬”があることで、飲酒量が増え、飲酒が習慣化しやすい。ただし、飲酒で寝つきは良くなる一方、深い睡眠が得られず、寝起きは悪い。それで飲まないと眠れないという悪循環を生むこともあります。そんなことが重なって、うつ状態や不安、イライラなどの人は、飲酒が習慣化して、アルコール依存症になりやすいのです」

酒量を減らす意欲がある人をサポート

 アルコール依存症は、習慣的な大量飲酒で脳が障害を受け、酒量や飲む状況をコントロールできなくなる病気だ。意志の弱さや性格の問題ではない。多くは、宴会があれば飲むという機会飲酒から始まり、飲酒が習慣化しつつ、一方でアルコールの耐性もできて、たくさん飲まないと酔わないように。そうやって精神的にも身体的にも、アルコール依存症になっていく。

 アルコール依存症の患者は80万人で、疑いのある人は440万人に上る。自信をもって「違う」と断言できる人は、まず表のスクリーニングテストを試してほしい。4点以上は、アルコール依存症の疑いアリで、1~3点は要注意(1番のみで1点は正常)。0点が正常だ。

 結果はどうだろうか。記者は、5番、9番、10番が該当し、要注意。なるほど、スマホやサイフを落として後悔したことは一度や二度ならずだ。休肝日は週に3、4日あるが、飲み始めると止まらない。酒量の減らし方を考えた方がいいかもしれない。それが難しいのだが……。

■飲む1~2時間前の服用で衝動もなくなる

「アルコール依存症が重症だと、仕事や人間関係に支障を来たすほど酒を飲むため、内科的な病気も重いことがほとんどです。そんな人が社会復帰するには、禁酒が不可欠で、認知行動療法でアルコールの問題の理解を深めたり、グループ療法で再飲酒を防ぐ取り組みをしたりすることが重要。そこまで至らない軽症の人、具体的には仕事や家庭が安定し、内科的病気や精神症状が軽症で、酒量を減らす意欲がある人には、ナルメフェン(商品名セリンクロ)という減酒薬があります。これを服用するのがお勧めです」

 ナルメフェンは、飲み会などの1~2時間前に服用すると、酒を飲んでもおいしく感じられなくなる。結果的に飲酒量が減る仕組みだ。のんべえは「きょうは飲まない」と誓っても、赤提灯やネオンにつられて飲んでしまうことがある。しかし、これを服用すると、そんな要素に触れても、飲みたい衝動も湧きにくくなるという。

「アルコール依存症の人を対象に偽薬とナルメフェンにグループを分けて服用してもらうと、ナルメフェンのグループは、多量飲酒の日数も1日当たりの総飲酒量も減らすことが明らかになりました」

 節酒や減酒を考える人にはうれしいが、この薬はアルコール依存症治療の研修を受けた医師が処方できる。分かりやすく言えば、精神科や心療内科のアルコール外来などになる。なじみの内科などでこれを求めても、処方してもらえるわけではない。軽症でも、定期的なカウンセリングが必要なためだ。

「軽症でも、アルコール依存症の背景には、うつや不安など精神的な問題を合併していることが多い。その精神面への治療でストレスとの向き合い方を見直すことが重要。その上で、悪化している睡眠の質を良くするため、睡眠薬をうまく併用するのがコツです」

「飲まずに寝る」をきちんと実行すべく、睡眠薬を飲んで寝てしまう。そうすれば熟睡で疲れがとれ、休肝日にもなる。一石二鳥だ。

 飲み始めると止まらない人は、一度、医師のサポートを受けながら減酒プランを考えてみてはいかがだろうか。

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