“うつ病”はどん底より回復期に「自死リスク」が…芸能界で相次ぐ悲劇は他人事ではない

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 俳優の渡辺裕之さん(享年66)に続いて、タレントの上島竜兵さん(享年61)も、自ら命を絶った。芸能界を覆う悲しみは、一般社会にも広がっている。2人のように元気なイメージでも、つらい思いを抱えている人は少なくないだろう。相次ぐ悲劇は、決して他人事ではない。

  ◇  ◇  ◇

 渡辺さんが荼毘に付された10日、妻で女優の原日出子さん(62)がコメントを発表している。自死との関連性が注目されるのが次の一節だ。

「コロナの最初の自粛の頃から、人一倍家族思いで心配性な夫は、先行きの不安を口に出すようになり、考え込むことが多くなりました。(中略)『眠れない』と体調の変化を訴えるようになり、自律神経失調症と診断され、一時はお薬を服用していました。しかし、少しずつじわじわと、心の病は夫を蝕み、大きな不安から抜け出せなくなりました」

 一方、上島さんをめぐっては、看板のリアクション芸がコロナ禍で減少したことや師匠と慕った志村けんさん(享年70)をコロナで失ったことが不安を募らせたほか、自らの名前を冠した飲み会「竜兵会」を開くことができなかったことが寂しさを助長したのではないかとみられている。

 渡辺さんは妻のコメントにある通り「何事にもストイックで、一生懸命で、手を抜くことをしない人」。上島さんは、先輩を慕い、後輩思いであることは一連の報道の通りだ。そんな2人だから仲間との疎遠や仕事の減少が心のダメージとして大きく影響したのかもしれないが、こと仕事に関してはゼロになったわけではない。2人とも亡くなる前に仕事の話をしたり、準備したりしていたことが共通する。

 ストレスケア日比谷クリニック院長の酒井和夫氏はそこに着目してこう言う。

■うつ病あるいは躁うつ病の影響?

「お2人を診察したわけではないので、あくまでも私見であり、推測ですが、このような最悪の結果を招いたことから考えると、うつ病あるいは躁うつ病(双極性障害)の影響があると思います。一般的にこのような病気で自殺に至るのは、どん底まで落ち込んだときではなく、最悪の状態を脱して少し回復したタイミング。その少し持ち上がったところで、何らかのショックを感じると、『もうダメだ』という絶望感を強め、悲劇を起こしやすいのです」

渡辺裕之さんは亡くなる前日にゴルフ番組の準備

 そこで、原さんのコメントを改めてみると、渡辺さんの回復ぶりに触れた部分に目がとまる。夫が大きな不安に襲われたことで医師に相談。「希望の持てる治療を始めた矢先の、突然の出来事でした」としてこう書いている。

「亡くなる前日は、楽しみにしていたゴルフ番組の収録に向けて、久しぶりに元気に動き回り準備をしていました。治療の甲斐もあったのかと安堵していたところでした」

 上島さんについても、亡くなる前日に仕事の話をしていたとする報道があるほか、今月25日に女性グループのライブでのゲスト出演が決まっていたという。

 ところが、2人とも、自宅で帰らぬ人となっている。前向きになる要素がありながらも、妻からちょっと離れ、ふと一人になる時間ができたことで、自分を追い込むようなことを考えてしまったのか。

 その真相はともかく、うつ病やうつ状態だと、自律神経失調症と同様に身体症状と精神症状が表れる。前者は頭痛、腹痛、下痢、肩凝り、不眠症、食欲・性欲の減退、めまい・立ちくらみなどで、後者は不安や集中力の低下、関心・意欲のダウン、考えがまとまらないなど。それに加えて、うつ病だと、妄想が生じることがあるという。酒井氏が続ける。

「ひとつは貧困妄想で、その言葉通りおカネや仕事がなくなるのではないかという妄想です。もうひとつは罪業妄想で、罪を犯していると思い込む。世の中の悪いことがすべて自分のせいだとすることもあります。どちらも、現実はそんなことがなくても、仕事や生活の不安定さによって、妄想が強まりやすく、それが度重なる状態はよくありません」

 さらに重い病気を患ったとする心気妄想もあるそうだ。家族のサポートがあっても、一人でいるタイミングで、こんな妄想が湧き始めたらマズいだろう。

「死にたい」より「楽になりたい」という感覚

 うつ病と診断されたことがあるイラストレーターのクロキタダユキ氏はこう言う。

「僕の場合は、妄想よりも胸の奥のザワつきがつらかった。胸の中をノコギリでガリガリやられているというか、スズメバチが飛び回っているというか。朝昼夜と時間に関係なく、突然、それに襲われるんです。正直、電車のホームで発症したときは、『電車に飛び込んだら、どれだけ楽か』という衝動に駆られました。そのときは、『死にたい』より『一刻も早く楽になりたい』という感覚なのです」

 なるほど、妄想のドロ沼にハマった人も、つらいネガティブ思考から抜け出したい、楽になりたい一心で自らに手をかけるのかもしれない。クロキ氏は、「ワケもなく突然だった」が、酒井氏によればキッカケはあるという。

「家族や友人の死という重い影響だけでなく、ほんのちょっとしたことが引き金になります。たとえば気温や気圧の変化、天候不順による頭痛や腰痛の悪化、仕事や職場の環境の変化などで、とにかく何らかの変化に影響されやすい。中には、銀行の預金残高をネットで確認し、減っていることを目にした結果、妄想が始まる人もいます」

 うつ病による自殺というと独居や貧困がリスク要素に挙げられる。2人は少なくとも独居ではない。収入については、コロナ禍による仕事の減少はあったにせよ、世間で語られるような貧困状態ではないだろう。それだけに2人の自死は他人事ではなく、経済力があってもなくても危うい現実を象徴しているといえる。

「好業績の企業の正社員でも、40代、50代はリストラの対象になり、一生安泰とはいえない時代です。契約・派遣社員や業務請負で仕事をしている人は、より不安定でしょう。その変化に過敏な人は要注意です」

「過食・過眠」と「食べられない・眠れない」

 酒井氏は冒頭、自殺の背景としてうつ病のほかに躁うつ病を指摘した。この10年ほど、うつ病より躁うつ病の方がクローズアップされていて、変化に過敏な人は上昇局面で周りの人以上にすぐハイテンションになり、下降局面では絶望的な落ち込みを見せるのが特徴。本人も周りも、上昇局面を“正常ライン”ととらえがちで、へこんだときの異常を見逃しやすいのがネックだろう。

 実は、躁うつ病とうつ病では、一般の人にも分かりやすい特徴がある。躁うつ病は、食べ過ぎ&寝過ぎで太りやすいが、うつ病は食べられない&眠れないで痩せやすい。周りは、気分の変動が激しい人が太ったり、過剰に寝たりすると、躁うつ病を疑っていいかもしれない。

 そんなサインで治療に結びついたら、とにかく続けること。「回復傾向にあるときほど、治療の継続と周りのサポートが欠かせません」(酒井氏)という。では、周りはどんなことに気をつければいいか。

■励まさない

「まずうつ病や躁うつ病でどん底の人が『死』を口にしても、『そんなこと言うな』『バカなことはやめろ』などと叱らないこと。励ましもよくありません。頑張る気力もなく、できないことでイラ立ちを募らせてしまいます。そうではなく、相手のつらさに耳を傾け、話を聞くのです。つらさを吐露することが、ガス抜きになります。治療で少し回復したときは、散歩など軽い運動で外に連れ出してあげると、発散できると思います」(クロキ氏)

 変化の激しいこの時代、盤石な人はほとんどいないだろう。2人の死を無駄にしないためにも、周りに寄り添う気持ちを持つことが大切だ。

 ◇  ◇  ◇

■厚生労働省のホームページで紹介している主な悩み相談窓口

▽いのちの電話 0570-783-556(午前10時~午後10時)、0120-783-556(午後4時~同9時、毎月10日は午前8時~翌日午前8時)

▽こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556(対応の曜日・時間は都道府県により異なる)

▽よりそいホットライン 0120-279-338(24時間対応) 岩手、宮城、福島各県からは0120-279-226(24時間対応) 

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